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2012年12月2日…今日というこの日を、俺は一生忘れることはないだろう。多忙的な意味で。 世界を救ったばかりだというのに、昼にはハルヒに叩き起こされ不思議探索。その後、大人朝比奈さんと 長門に会った俺は…今はとある書店の、とある雑誌コーナーの前にて立っていたのさ。カテゴリーは音楽系だ。 ふむ、いろいろ揃ってる。何々…最近話題沸騰のバンド、インディーズからついにメジャーへだと?? 気になる…俺はロキノンを手に取りかける。いや、待て、こっちのCD DLデータも見逃せない… バンプのインタビューが載ってんだから尚更だな。次にリリースする新曲と近々始まる全国ツアーへの 意気込みに関してか。後で読んでみよう。 一方、SHOXはDIR EN GREY特集…どっかで聞いたことあるバンドだな? ほお、欧州で人気確立とは。日本のバンドで海外進出ってのも…なかなか珍しい。 オリスタは、ああ、相変わらずアイドルばっかか。そういうのも嫌いじゃないんだがいかんせん興味が沸かない。 ただ、地味にシンガーソングライターの特集もやってるようだから一応読んでみるか。 …… …というわけで、結局主要雑誌には全て目を通した。いやあ、実に有意義な時間だった。そういや、こうして ゆとり持って音楽誌を眺められたのも随分久しぶりだな。以前はそれなりにチェックしてたはずなんだが… ハルヒとのSOS団が発足してからというものの、そういう日々もすっかりおざなりになっていた。まあ…もっとも、 今回俺がここのコーナーに立ち寄ったのも『あたしに曲を作って提供することよ!!』っていうハルヒの命令が 契機になってんだけどな。つくづく、俺はあいつに振り回されてんだなあと実感したよ、本当。ん?作曲? …… なんと、今の今まで俺は作曲の『さ』の字さえ忘れてしまってたらしい。忘れた上で、 俺は好きな歌手のページばかり見てたらしい。当たり前だが、それに比例して時間も潰しちまったらしい。 無意識のうちに現実逃避とは、これまた高等なテクニックを身につけたものだ。 「さて。」 家に電話する。 「今日は晩飯いらないから…ちょっと今友達の家にいてさ。 そこでとろうと思ってんだ。ああ、遅くとも9時までには帰るよ。それじゃあ。」 伝えるべきことをとりあえず伝えておく。なぜかって?とてもではないが、夕食の定刻ともいえる7時まで 帰れそうにないからだ。というか、今がその7時なんだよッ!!さらにここから作曲本に目を通すのだから… アーユーOK?瞬間移動や情報操作ができる長門でもない限りもはや不可能である。 「じゃ、気を取り直して本来の目的でも遂行しようかね…。」 作曲本は意外と早く見つかった。楽器店ではなく普通の書店だっただけに オーソドックスなものしか見つからなかったが…まあ、立ち読みする程度だし今の俺にはこれで十分だろう。 とりあえず【作曲入門】だの【初心者のためのコード理論】だのいろいろ読みあさってみる。 …… さて、およそ15分が経過したところだろうか。はっきり言おう。わからん! メロディーラインだけでいいと言っていたが…それさえも怪しくなってきたぞ。というのも… わかる人にはすぐわかるはずの基本的音楽用語でさえ、俺には理解しきれてなかったからだ。 つくづくと後悔する。もっと音楽の授業まじめに受けてりゃよかった。…しかし、俺にもプライド というものがある。一度引き受けたからには成し遂げるつもりだ…そう、ハルヒのためにも。 まあ、そういうわけで今日はこのへんにしておくか。帰って中学時代の音楽の教科書でも 引っ張り出して…それでもわからない用語があるようならネットで調べる等して補足しておこう。 粗方の知識が整った上で、また書店に足を運べばいいよな?できれば…今度は楽器専門店で。 去ろうとして、俺は持ってた本を棚に返そうとしたところ…不意に、背後から聞き覚えのある声がした。 「ククク…キョン、君もついに覚醒してしまったんだね。まさかミュージシャン志望とは思わなかったよ。 いや、作曲家志望だったかな?いずれにしろ音楽業界で生き抜いていくのは難しい…それはそれは、 激動の人生を歩むことになるだろう。聞いた話によると、全国でCDを1万枚以上売り上げるような バンドでも、その年収はフリーターと大差ないそうじゃないか。日本では特に、レコード会社や 広告代理店の中間搾取がひどいみたいだからね。必ずしも客観的に成功に見える人、あるいは 才能ある人が報われる世界ではないということさ。しかし、それを知ってもなお、そんな 未知の世界への挑戦をあきらめないというならば、僕はそんな君を全力で応援する次第だ。」 …一言、言っていいか? 「それが今日初めて会った人間に投げかける第一声か…!?長いッ!!長すぎるぞッ!?」 「僕がそういう人間だということは、とっくの昔に君は了承済みのはずだ。 別にそんなに驚くこともないだろう?あとね…ここは本屋だ。声の大きさには気をつけておくべきだね。」 お前がそうさせたんだろうが!?っと、いかんいかん。こいつ相手に本気になっても不毛だということを、 俺が誰よりも一番知ってるはずじゃないか…しかし、まさかこのタイミングでお前に出会うとは 想像だにしてなかったぞ…なぁ?そこでニコニコしてる佐々木さんよぉ? …ホント、今日はいろんな人間と遭う日だ。これも何かの巡り合わせか? 「とはいえ、いきなり話しかけたりしてすまなかったね。久々に君を見てしまったんで、つい…ね。 衝動が抑えきれなかったんだよ。旧友との素晴らしき再会、それに免じて許してはくれないかな? 「それに免じての意味がわからんが、あれこれ考えるのも面倒だからとりあえず許す。」 「そうこなくては。相変わらずノリがいいなぁキョンは。」 お前のノリは特殊すぎて理解不能だけどな。もっとも、相手が女子となると、 途端に口調が普通になるんだから本当…いろんな意味で掴みどころのない人間だお前は。 「まあ、さっきのは冗談としてだ、本当に君は何をしてたんだい?以前からキョンが 趣味としての音楽に熱心なことは知ってたが…ついにその熱意の延長線上として、 作ることさえ趣味の一つとして内包してしまった、といったところなのかな?」 「…そんな大層なもんじゃないぜ。まあ…これには海より深く、空より高い、 それはそれは複雑な事情があってだな…。」 「くっくっく…いや、失敬。君のそのしかめっ面を見て、一発で事情が呑み込めたものでね。 つまりあれだ、また君は涼宮さんたちと面白いことをしてるってわけだ。」 「一発でわかるほどに、俺の顔はひどく単純だったか?」 「おやおや、悲観してはいけないな。それが君の良いところでもあるんだから。おかげで、 僕は退屈することなく、こうやって優雅な時間を君と過ごせてるんだ。むしろ誇るべきじゃないかな?」 なんかもう、もはや喜んでいいのか悲しんでいいのかすら、わからんくなってきた。 しかし、実際のところはどうなんだろうな?思ったことがすぐ表情に出るってのは。それはそれで 円滑なコミュニケーションを…は!いかん!ヤツと本気で対峙してしまった時点で俺の負けだ…っ! 「…まあそんな具合でな、振り回されながらもなんとか生きてんのが俺だ。 そういうお前は何しに来たんだ?」 「それは、君に話さなくてはいけないものなのかい?」 質問を質問で返された。 「おいおい…俺だけ聞いておいてそれはないだろう… それとも、本当に知られたくない理由でもあるのか?」 「ないけどね。」 「じゃあなぜ話さない??」 「だって、そもそもその理由がないんだから話しようがないだろう?」 ニヤッとした表情を浮かべ、今か今かと俺の反応を待ち望む彼女。 ああ…そういうことですか。なんとなく『理由がない』の意味がわかった。 相変わらず、俺はヤツの詭弁に翻弄された哀れな子羊だったのさ。 「あのなぁ佐々木…それならそれで、始めから『なんとなく来た』って言え! ホント、紛らわしい言い方をするよなぁお前は…」 「ククク…そう、それだよ、そんな顔が見たかったんだ。」 「はぁ…」 ため息をつかざるをえない。 「まあまあ。たまにはこういう会話のキャッチボールも悪くないだろう?君も満更ではなさそうだしね。」 キャッチボールどころか、お前が投げる球は変化球ばっかだろ!?ちょっとはそれを必死に追いかけまわす 捕手の身にもなってほしいもんだね…というか改めて思ったが、やはり佐々木とハルヒはどこか似てる。 異なるベクトルで双方とも変人なのには違いないが…前者は意味不明の質問を、後者は無理難題な要求を 突き付ける辺り、立ち位置的にはかなり近いものがあるだろう。…古泉の例の憶測も、強ち間違っちゃ いねーのかもな。まさかこんなしょーもない会話でそれを実感しようとは、人生何が起こるかわからんな。 「ところでキョン。とっくに7時をすぎてるようだが…家のほうは大丈夫なのかい? いつもこの時間に席を囲ってみんなで食事してるのだろう?」 「ああ、いろいろあって遅くなっちまってな。だから家には連絡しといたよ。どっかで食べてくるってな。 お前こそ大丈夫なのか?門限とかどうなってるんだ?」 「おいおいキョン…中学時代ならともかく、高校生にもなってこの時間で門限云々はないよ。 時刻だってまだ7時をすぎたあたりだ。一応9時までとは決まってるけど。 それで…キョンはこれからどこかで外食でもしていくのかい?」 「ん?そーだな…考えてなかったな。まあ、一人で外食すんのもアレだから、 どっかのコンビニで適当に飯でも買って帰ろうと思ってるが。」 「一人で夜食とは、それはそれは寂しいことこの上ないね。」 はぁ…またそれか。何度も何度もそんな煽りに乗せられる俺ではないぞ。 「ああ、結構結構。寂しくて結構さ。」 「ん?反応を変えてきたね。なるほど、これはこれでまた面白い。くっくっく…」 ダメです先生。佐々木さんがどうしても倒せません。あきらめてしまってよろしいでしょうか? というか、俺以外であっても佐々木が倒される姿など想像できん。理論武装した古泉ですら 攻略不能なんじゃないか??とりあえず俺は途方に暮れてみた。 「まあ、そんな君にも朗報がある。実を言うと、僕も君と似たような状況下に置かれてるんだ。」 「じゃあ、俺とどっか食事でもいくか?」 「いいね。そうしよう。」 「ちょ、ちょっと待て?!?!」 ありのまま今起こった事を話すぜ。『冗談で言ったつもりが、いつのまにか既成事実と化していた。』 な、何を言ってるのかわからねーと思うが 俺も何をされたのかわからなかった。 頭がどうにかなりそうだった… ふんもっふだとかセカンドレイドだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 「似た状況って、お前家の人は??」 「仕事の都合で2人とも今日は帰ってこれないらしい。だから、僕はこうやって外を歩いてたというわけだ。 買い出しに行って自炊するか、弁当でも買って帰るか、あるいはどこかに行って外食でもするか… 結局どれでもよかったから、とりあえずは本屋に行った後で、そのときの気分で決めようと思ってたんだよ。 どうだい?納得したかな?」 大体の事情はわかったものの…納得するって一体何に??お前と一緒に食べに行くことか?? 「もしかして、本屋で俺に会ったから外食行く気分になったのか?」 「おいおい、何を言ってるんだい?今は僕の意志は関係ないよ。 そもそも、君が僕を食事に誘ったんじゃないか?」 なんということだ。揚げ足を取られてしまった。調子のったツケが返ってきましたよ、 それも物凄い早い時間でッ!こんなのってあんまりじゃね? 「キョンもなかなか殊勝なことを言うなって、僕は感心してたんだよ。 『一人で食べるよりみんなで食べた方が楽しい。』国語の文章にもよくある常套句だね。 そういう国家公認の美徳を自ら体現しようとしてた君が、僕にはまぶしくすら思えたんだ。」 「安いとこでいいよな?じゃあすき家にでも行くか?こっから近いしな。」 「僕はそれで構わないよ。」 俺は闘うことをあきらめた。っていうか放棄した。『ダメです先生。佐々木さんがどうしても倒せません。』逆襲編、 これにて完結。ちなみに続編の予定はありません。たぶん。 偶然客が空いてたこともあって、俺と佐々木は難なく席を取ることができた。 「で、佐々木は何を頼む?」 「キョンはもう決めたのかい?」 「いや…まだだが。」 「僕はキョンが食べるのと同じものにするよ。」 「それまたどうして?」 「気分さ。」 「……」 闘わんぞ…?闘わんと決めたんだ俺は!! 「ははは、これでは何とも抽象的すぎる回答だ。いや、何、久々に君と会ったんだ。 仲を確かめ合うためにも、なんとなく君とは違う料理を頼みたくなかったんだよ。 ふむ、説明したところで抽象的なことに変わりはなかった。ま、あまり深く考えないでくれ。」 仲を確かめ合うって、そんな大げさな。けれど、俺にはそういう佐々木の態度が嬉しくもあった。今となっては 俺は塾に通ってないし、ましてや在籍してる学校も互いに異なる2人だが…そんな希薄な関係であっても、 俺とは親友でいようと佐々木は思ってくれているのだ。そこまでされて何とも思わないような奴は、残念ながら 人間的ともいえる基本的感情が欠落してるとしか思えない。もっとも、俺と佐々木は、厳密にいえば無関係 というわけではなかったのだが。雪山での遭難事件以来、藤原・橘・周防といったSOS団の面々と敵対する 連中が現れ始め、そいつらが佐々木の取り巻き(本人はそうは思っていないが)となってしまっていたのだ。 あのときは本当に驚いた…そりゃあな、宇宙人、未来人、超能力者といったとんでも存在ならまだわかる。 まさかつい最近まで親友であり、そしてごくごく普通な一般生徒であったはずの彼女が(性格はともかく) 一体どうして涼宮ハルヒにまつわる事件の当事者になっていると考えられようか??言うまでもなくありえない。 妄想であってもそんなこと考えもしないだろう。ならば、古泉・長門・朝比奈さんたちからすればハルヒの 重要なカギともいえる存在だった…そんな俺が佐々木とは関係ないなどとは、もはや口が裂けても言えない。 言えるとすれば、あまりにそれは無責任で、そして現実逃避そのものとなろう。 …… ここまで考えてふと思った。いや、単なる俺の思いすごしかもしれんが…どうも、『仲を確かめ合う』この言葉が 引っかかった。もちろん聞いて嬉しかったし、佐々木が今このタイミングで言った理由もわかる。客観的に見れば それで解釈は終了なんだろうが…どうも俺にはそれとは別のニュアンスがあるように思えた。言うなれば、 『これまでの関係が白紙になったとしても、君は僕と親友でいてくれるかい?』こんなふうに…。根拠はない。 妄想かもしれない。しかし、ハルヒの能力が消えたかもしれない今、どうしても勘ぐり深く考えてしまうんだ。 …即ち、【これまでの関係】=【ハルヒを中心とした関係】が終わりつつあるのではないか… いや、もしかしたら終わってしまったのではないか?そんな予感が俺の中にはあった。 これが指す意味は、つまり佐々木の能力も、ハルヒのそれと同様に…ということである。 古泉の例の推論でいくならば、当然そうなるはずだ。もちろん、そうなった場合本人である佐々木も そのことに気付いてるはず。そのとき彼女は一体何を思ったのか…現在俺の向かい側にて 静かにメニューを眺めてる、そんな佐々木の表情からは何も推し量ることはできなかった。 しかし、結果的にはこのとき俺が…佐々木のことを必死になって推察する必要はなかったんだよな。 なぜなら数分後、本人の口から直接それを聞くこととなったのだから。 「で、キョン。もうメニューは決まったかい?」 「え…あ、すまん、まだだ。すぐ終わるから待っててくれ。」 「ふーん?おかしなもんだね君も。僕の顔を執拗に ジロジロ見るもんだから、もうとっくに決めちゃってるのかと思ってたよ。」 「!?」 視線を合わせたりはしてなかったはずなんだが…!? 「そ、それはあれだ、お前は今どんなモノが食べたいのかなーと、表情から伺おうとしてたんだよ!」 「別にそこまで配慮してくれなくていいけどね。基本、僕は何でも食べるから。 君の好きなように選んでくれていいんだよ。」 「そうだよな…ははは。」 「とでも言えば、満足かい?」 ッ?? 「くっくっく、キョン、それで隠してるつもりかい?その焦った感じ、適当に場を取り繕った感じ、 傍から見りゃ丸わかりだよ…?それにしても何をそんなに…くっくっ…どうしてくれるんだいキョン? 君のその二転三転する顔のせいで、こっちは笑いが止まら…くっくっくっ」 「……」 佐々木様には全てお見通しというわけですか。というか、今直感で思った。 こいつは将来検察官になるべきだッ!その頭の回転の速さ、そして鋭い洞察力をもってすれば裁判など、 瞬く間に終了だろう。弁護人の反論さえ許さない圧倒的詭弁術に加え、挑む者の気さえ削ぐ巧みな心理術… 佐々木みたいのが何人もいれば、裁判の長期化という国が抱える日本特有の司法問題も 一挙にして解決だろう!?ヤツの判断力ならば、冤罪が生まれる可能性も低いだろう。 もっとも…そんな量産型佐々木は見たくないが。こんなの一人で十分だ… 「とはいえ、こんなにも僕を笑わせてくれたんだ。その敬意に感謝し、 追求は控えておくとするよ。むしろ追求しないほうが面白そうだからね。」 「佐々木っ」 「ん?何だいキョン?」 「オクラ牛丼を頼もうと思うが、これでいいか?」 「いいんじゃない?しかし、そんな『オクラ牛丼』という突飛な名前だけじゃ、 僕の気はそれないんだなこれが。チョイス自体は悪くなかったと思うけどね。」 「そうですか。」 俺は抵抗することをあきらめた。っていうか放棄した。さっきも似たようなことを言った気がするが、 んな昔のことは忘れた。もう知ったこっちゃねーや。 しばらくして店員の方が来てくれた。さすがに前回みたいに機関の人間… というわけではなかったので、そこは安心した。もしまた森さんだったらマジメにどうしようかと思った。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 「ええっと…オクラ牛丼2つで。」 「かしこまりました。サイズはいかがしましょう?」 そういやサイズも選べるんだったな。ちなみに、今の俺には選択肢はこれしかない。 「じゃあ特盛りで。」 「…オクラ牛丼特盛り2つ、以上ですね?しばらくお待ちください。」 厨房へと去っていく彼女。 …… 実は今、俺の腹は極限状態だった。皆さんはお気付きだろうか?今日一日の、 今に至るまでの俺の食事情を…!まず、朝食は食ってない。起きたのが昼の3時だったからだ。 で、そこから急いでハルヒたちSOS団と合流して、まずは喫茶店でオレンジジュースを一杯飲んだ。 そして不思議探索中に古泉・朝比奈さんに断って肉まん、おにぎりを腹に入れた。 そこからまた、いろいろ長いプロセスはあったものの…とにかく、その間は何も食していない。 長門のウチでカレーくらい軽くごちそうさせてもらったらよかったかもしれない…後の祭りだが。 つまりである、おわかりだろうか??今日昼に起きて、そして現在夜8時におけるまで… 俺はオレンジジュース、肉まん、おにぎりの3品しか食っていないのである!! 大人朝比奈さんとの話、そしてさっきの作曲本との格闘では、精神的余裕がなかったことが功を成し、 おかげでそれほど顕著な空腹感は覚えなかった。しかし、外食店に入った今となっては限界だ… 意識せざるをえない…!昨日あんなことがあったばかりで、にもかかわらずハルヒに 叩き起こされ、今の今まで奔走してきた俺を一体誰が咎められようか??いや、むしろ褒めてくれッ!! 食事の到着をまだかまだかと心待ちにしながら俺は 切実に、そんなくだらんことを考えていたのさ。 「なんとも…悲惨なくらいに追い詰められた顔をしているね君は。さすがにこの有り様じゃ、 僕でなくとも君の異変には気付くよ。そんなにも腹が減っていたというのかい??」 俺は心なしにそう頷く。気付けばテーブルの上に顔をうつ伏せているではないか… 空腹というのもあるが、何より昨日からの疲労の蓄積というのも大きな原因だろう。 「なあ…佐々木よ。今日って日曜だよな?」 「ほ、本当にどうしたんだいキョン??さっきまで僕の理不尽な質問に 元気よく付き合ってくれてた君は、一体どこへいったというのか??」 ああ…理不尽って自覚はあったんすか佐々木さん。それは何よりです… 「それより…日曜だよな?今日は。」 「そ、そうだよ。日曜だね。」 さすがの佐々木も俺の途方ないマイナスオーラを感じ取ったのか、 すっかり萎縮してしまっている。なんとも、珍しいものが見れたもんだな。 「ってことは…明日はつまり月曜か…」 「きょ、キョン…」 なんということだ…こんな調子で、明日学校だというのか??宿題は??授業は?? いや、そう焦る必要もねえ…要は宿題はやらなきゃいいわけだし、授業中は寝てりゃいいんだ。 なんだ、簡単なことじゃねえか? …… そうでも思わないと、もはややってられない俺なのであった。 …… 「…1日くらい休んだらどうだい?」 「…え?」 今何か佐々木が言ったような気がする。何を言った? 「1日くらい休んだってバチは当たらないということさ。むしろ、今は12月という最も冷え込む時期。 そんな中無理して体をこじらせたら、それこそ本末転倒というものだろう?それに、そんな事情なのなら 涼宮さんだって決して怒ったりはしないよ。それどころか、SOS団の部員を引き連れ団体訪問のごとく、 君のとこにお見舞いに来るんじゃないかな??」 …意外だ。生真面目なこいつのことだから、てっきり説教をくらうとばかり思ってたが。 「それは曲解というものだよキョン。それに、僕はただ合理的な判断をしたまでさ。」 「…ここは、心配してくれてありがとうと言う場面か?」 「当人にそれを確認してどうするんだい…?けど、そう言われて悪い感じはしないかな。」 「じゃあ言ってやろう。佐々木、ありがとよ。」 「どういたしまして。」 …… 「まあ、とりあえずはこれから来たる食事を存分に堪能することだね。案外、腹を満たせば君のその不調も 回復するかもしれない。病も気から…と言うから。良くも悪くも人間は単純なようにできてるのさ。」 「お待たせしましたー。」 「噂をすればだね。」 「では、ごゆっくり。」 職務をこなした店員が再び厨房へと戻っていく。つまり、今俺の目の前には… …ゴクリ 一体どれだけこの時間を待ち望んでいたことか…!?感動のあまり、つい涙腺が弛むのがわかる…!ダメだ… 気を許せばその瞬間食器にかぶりつき、犬食いしてしまいそうな勢い。とりあえず俺は落ち着く必要がある。 「佐々木…ちょっとそこにあるポットでお茶を注いでくれないか?」 「了解だよ。」 俺が差し出したコップに、そっとポットの口を向ける佐々木。 「はい、あなた。お茶ですよ。」 「夫婦か!?」 「なんとも…!正直、今のは死者に鞭を打つようなマネだったから完全スルーも覚悟してたんだが… なるほど、これが人間の底力ってやつなのかい??」 俺に聞かれても知らんわッ!!というかっ、死者同然だと認識しておき、何ゆえお前は 追い打ちをかけようと思ったのだ??俺にはまずそれが知りたい。切実に知りたい。 死者ってのはな、いたわってやらねえとダメなんだぜ…。 まあ、それとは別にいささか元気が出てきたってのは事実だが。おそらくは目の前に置かれた オクラ牛丼特盛り…つまり、いつでも食おうと思えば食える。そんな環境下にあるという一種の安心感、 そして優越感…それだけで、俺の疲弊した精神状態に一時の安らぎをもたらすには十分といえた。 さて、もういいだろう?今俺が成すべきことをしようじゃないか。 「いただきます。」 付属されたカツオブシを丼の上に振りかけ、後はそれを食べるだけだった。 …… 気付けば容器は空だった。俺ってこんなに食べるの速かったっけ?ましてや特盛りだから量はあったはずだが… 「おいおいキョン…君ってやつは。口にありったけ丼をかきこみ、噛み砕いたか怪しい部分は お茶で一気に流し込む。それはそれは、普段の君からは想像もできない荒業を披露していたよ。 こんな文字通りの暴飲暴食をできる人もなかなかいないだろうね。」 …そんなに俺はひどい有り様だったのか。ヒドイやつがいたもんだな…。そういや、よく味わった記憶がない。 ただ、美味かった!それだけだ。 『美味かった!』それだけで十分ではないか??シンプルイズベストと いうだろう??結果的に、俺は腹が膨れる多大なる幸福感にも包まれた。これ以上どう表現せよと言うのだ!? …ああ、そうだな。最後に言うべき台詞があったよな。俺は手を合わせ、そして言う。 「ごちそうさまでした…!」 農家のみなさん、いつもいつもありがとう。おかげで日本の食卓は今日も平和です。 「うーむ…さすがに食べきれないか。参ったね。」 などと思ってたところ、不意に佐々木の声がする。 「どうしたんだ?」 「そのままの意味さ。どうやら完食できそうにないんだ。」 「なん…だと…」 ついさっき農家のみなさんに感謝したばかりだというのに… 残してしまっては彼らに申し訳ないじゃないか。というか、今気付いたことなんだが… 「佐々木よ…俺と同じ特盛りとは、一体どういうことだ??」 本当にどういうことなんだ??佐々木が大食いだった記憶はねえし… ってか、特盛りサイズならそりゃ残しもするだろう?女の子なんだぜ? 「どうしたもこうしたも、君が頼んだんじゃないか。僕はただ、それを素直に受け入れ黙々と食してただけだ。」 俺が頼んだ…?ちょっと待て、あのときは確か ------------------------------------------------------------------------------ 「かしこまりました。サイズはいかがしましょう?」 そういやサイズも選べるんだったな。ちなみに、今の俺には選択肢はこれしかない。 「じゃあ特盛りで。」 「…オクラ牛丼特盛り2つ、以上ですね?しばらくお待ちください。」 ------------------------------------------------------------------------------ …しまった。佐々木のことを全く考えてなかった…いや、だって仕方がないだろう…? ちょうど飢餓感で思考停止してた時間帯だぞ?ああ、御託を並べたところで どうみても言い訳ですね本当にありがとうございました。 「すまない佐々木…あのときお前のサイズも聞いておくべきだったな。けど、それならそうで お前も店員に横から注文入れりゃよかったのに。『片方は並でお願いします。』とかさ。」 「その意見は至極妥当だと言える。そしてサイズだって、自分に不釣り合いなのはわかってたよ。」 むしろ釣り合ってたら驚愕ものだ。まあだからといって、それで佐々木を嫌ったりは決してないが。 「それでも今日だけは君と同じ…あ、いや、何でもない。とりあえずさ、食べるの手伝ってくれないかな? いくら特盛りだったとはいえさっきがさっきだし、君もまだ満腹というわけじゃないんだろう?」 「まあ、実を言うとそうなんだけどな。じゃあ少々いただくとするぞ。」 …というわけで、結局残さず食べることができた。 「ふーっ、満足満足。さすがにこれ以上は食べれないな。」 「お疲れ様キョン。はい、お茶だよ。」 「おう、サンキュ、佐々木。…今度は『あなた』とは言わないんだな。」 「言ってほしかったのかい?まさか君がそういう属性の持ち主とは思わなかったな。」 「違うっつーの。」 そういう属性が何なのか気になったが、聞けば最後ヤツとのイタチごっこ開始である。 即ちそれは俺の負けなんで、とりあえず否定だけしておく。 しかし…結局いただいたのは少々じゃなかったな。半分は収奪してしまったかもしれない。 そうなると、俺と佐々木が同じ値段支払うってのも何か理不尽だ…ここは俺がヤツの半額は出しておくべきか? いや、そもそもだ。よく考えれば佐々木はまごうことなき女の子だった。断って言っておくが、決してヤツに 女としての魅力がないとかそういうわけではない(むしろ外面だけならかなりのトップレベルのはずだが) あまりに友達としての距離が近かったせいか?口調のせいもあると思うが、とにかく、 これまで佐々木のことを女だと意識したことはあまりなかった。そういうわけでだ、昨今の男女観的に 女子相手に割り勘ってのはちょっとまずいような…?そんな強迫観念があった。 しかれば、ここはヤツの肩をもつつもりで…などと考えていると 「…何を考えてるか知らないけど、奢りとかそういうのはなしだからね。」 いや、知らないけどとかじゃなくてズバリ当ててるし…というか、なぜまたしても考えてることがわかった?? ここまでくると洞察力云々の問題じゃないような気がするんだが…アレか?こいつには何か 千里眼のような特殊能力でもあるんじゃないのか…?と、漫画みたいなこと考えても虚しいだけなんで 妄想はこのへんにしておく。どうせ、俺がそういう表情をしてたとか、そう言うんだろう?こいつは。 ここまでわかりやすいのもある意味特殊能力だな。俺。 「…その諦観しきった表情見ると、やっぱり図星なんだね。まったく、君ってやつは… どうしてそう変なとこでマジメになるかな?言っとくけど、僕はそういうの気にしないよ。 というか個人的に言わせてもらうなら、そういう風潮自体あまり好きじゃないんだ。確かに、 表面上は女性が得するようにできてるけどね。逆を言えば、それは暗に女性は男性より経済力がないと 言ってるようなもんだよ。ましてや君と僕は友達の間柄であって、決して特別な関係ではないんだ。 さすがに、そこまで大人の男女観を持ち込むのはね。もしそれを是とするならば、日本の青年諸君は、 きっと満足な青春すら送れなくなること違いない。日々の動作1つでも金銭が絡んでるとなると、 生活しづらいことこの上ないだろう?男はもちろんだが、相手に払わせたくないと思ってる女だって 気が気じゃないさ。そういうわけで君が僕に奢る必要はないんだよ。もちろん、その気持ちは嬉しかったけどね。 そういうのは恋人や夫婦間でのみ成立するものと、個人的にはそう考えてる。」 「そ、そうか…わかった。じゃあそうしよう。」 すっかり俺は佐々木の語るジェンダー論にひれ伏してしまっていた。 なかなか隙のない考えだったように思う。そりゃ男女観ってのが人によって千差万別なのはそうなんだろうが、 とりあえず本人がこう言ってるんだ。なら、敢えてそれに異を唱える道理もないだろう。 しかし…改めて佐々木には感服した。自分の社会的役割や責任というのを、 この歳にしてヤツはすでに自覚してるように思えたからだ。あー、なんというか、つい比べずにはいられない。 どこぞやの団長様に爪の垢で煎じて飲ませたいくらいだな。そう思うと、不意に笑いが込み上げてくる。 「?何やら楽しそうだね。」 「あ、ああ…すまん。なに、あまりにお前とハルヒが対照的だったんでな。つい。 奴なら間違いなくこの局面で俺に奢らせたろうよ。というか、そう命令するに決まってる。 実際問題、俺はこれまで何度も奢らざるをえない境地に立たされたんだからな。」 「それは…あれだろう?君がSOS団の活動時刻に遅れたからとか、確かそういう涼宮さんが決めた 規則によるものじゃなかったかな?彼女自体は男女どうこうとか、そういうことは考えてなさそうだけど。」 「まあ…そうなんだがな。そうなんだが…俺にはどうしてもハルヒが、 あのハルヒが俺と割り勘する姿が想像できねーんだ…」 「ほう…そこまで強く言うとは。ある意味確信の域に近いのかな?」 「そんな感じだ。」 「それはそれは…なんとも羨ましい限りだ。」 「『羨ましい』??お前は、理不尽にも奢らされる俺の身が羨ましいというのか?どういう了見だ…。」 「くっくっく、何を勘違いしてるんだい君は。君じゃなくて涼宮さんのことだよ。」 涼宮?ってことはつまり、お前は…相手に奢ってもらう立場が羨ましいということか?? まあ、ある意味じゃそれは当然か…だとすると 「佐々木…お前、もしかして本当は俺に奢ってほしいんじゃないか?」 当然こういう帰結になる。 「そうきたか…くっくっくっ、相変わらず君という人間は面白いね。残念だけどキョン、またしてもそれは勘違いだよ。」 「……」 一体どういうことなの? 「僕はねキョン、君に行動原理をしっかりと把握されてる、そんな涼宮さんが羨ましいと言ったんだよ。そして、 そんな彼女も君のことを把握してるからこそ、理不尽な要求が通せるんだ。互いが互いのことをわかってる… なんとも理想的な、仲睦ましい男女じゃないか。」 「ちょっと待て…さすがにそれは飛躍しすぎだろう!?ハルヒはな、別に俺に限らず大体あんな感じだぞ??」 「ほう。じゃあ逆に聞こう。彼女が、涼宮さんが君以外の男子に対し 果たして奢ってくれなどという要求をするかな?」 え…?そりゃあ…するんじゃないか?と一瞬考えて思いとどまった。昔ならともかく、 SOS団の発足から随分の時が経過した今…団員以外のメンツに無理難題を言い渡したりするのだろうか? 特に最近のハルヒはおとなしくなってきてるから尚更だ。あ、ちなみに古泉は論外な。 副団長という階級で優遇されてる上、さらには機関とかいうとんでも組織の協力も得ている。 同じ団員への大号令でも、その質は俺と古泉とでは天と地ほどの差があるのは言うまでもない。 で、結局どうなんだろうな?ふと俺の知らない第三者がハルヒに奢らされてるシーンを想像する。 …胸がムカムカしてきたのはどうしてだろう。食べすぎたか? 「さっき僕は言ったよね?男女における奢るという行為は恋人や夫婦間でのみ成立するって。 もちろん、これは僕個人の勝手な考えだ。ただ、涼宮さんにしたって大きくこの考えから逸脱してるようには 思えないんだ…僕からすればね。彼女がじかにそれを意識してるかどうかは知らないけど、 少なくとも君のことは一人の男性として、特別な価値を置いてると思うよ?」 「あのなぁ…お前は、少々人間というものを過大評価しすぎだ。 世の中にはな、損得勘定だけで奢ってもらおうとする奴だってざらにいるんだぞ。」 「じゃあ聞くけど、キョンは涼宮さんのことをそういう類の人間だと思ってるの?」 「……」 …… 「いや…思わない。」 天上天下唯我独尊その人であり、ただひたすら自分の覇道を突き進んでいく… それが涼宮ハルヒだ。が、言ってしまえばそれだけ。良い意味で…あいつは単純なんだ。 ゆえに権謀術数などとは程遠い所にいる存在…それもまた涼宮ハルヒだ。 …… ところで、ふと思ったのだが…。佐々木が指摘するように、とりあえず俺がハルヒのことを よく知ってる人間なのは間違いない。だが、ある意味では佐々木のほうが詳しく見えるのは 俺の気のせいか?2人はそこまで面識もなかったはずなのだが… 「どうしたんだい?難しい顔をして。」 「いや…やけにお前がハルヒに詳しいと思ってな。」 「おや、君にはそう見えたのかい?仮にそうだとしたら、さて…それはどうしてなんだろうね。 彼女とはあまり会ったこともないから尚更だ。なぜだか君にはわかるかい?」 いや、わからないからお前に聞いたんだが…!?しかし佐々木よ…またそれか。付き合い長いからわかるが… あいつは今、決して自分がわからないから俺に聞いてる、というわけではない。敢えて聞いているのだ。 なぜかって?俺の反応を見たいからに決まってるだろう…? 「はぁ…やれやれだな。佐々木さん、わからんからどうか答えてください。」 「随分と早い降参だね。よしんばこの話題を引っ張ろうと思ってたんだけどな。まあ、わからないなら仕方ないか。 答えはね、僕と涼宮さんが似た者同士だから。そのせいかな、なんとなく考えてることがわかるんだ。」 「……」 似た者…同士…??そりゃあな…ある意味では似てるだろうよ。俺に対する立ち位置的意味でな… 実際、さっきそういうこと考えてたからわかる。しかしだ、俺の考えてる【似てる】と佐々木の言う【似てる】は、 果たして一緒の意味なのか??いや、なんとなくだが違うと思う… 「ふむ、どうやら意味をよく呑み込めなかったらしいね。じゃあもっと砕けた表現をしよう。 つまりね、同じ人を好きになった者同士ってことだよ。」 「え?」 こいつ今、さらりと凄いこと言ってのけなかったか?聞き間違いとかそういうオチ? 「すまん…誰が、誰のことを好きだって??」 「僕と、涼宮さんが、キョンのことを。」 「……」 幻聴?俺の耳はついにいかれてしまったのか?この歳で? いや、だって…ありえないだろ??外食店で、それも平然と言ってのける。 …なんだ、ただの普通の会話か。俺の勘違いか。
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天蓋領域との壮絶かつ困難なバトルの話は俺の中で整理がついた時にでもゆっくり 語ろうと思う…… 。 季節は三度目の桜がまるで流氷を漂うクリオネの姿で舞う光景を見ながら、 俺はシーシュポスの苦痛を3年間も続けたんだなという感慨にふけり、後ろを 振り返った。 北高に入り、ハルヒと対面したあの日が走馬灯のようによみがえってくる。 思えば「宇宙人、未来人、…… 」あの言葉を聞いた瞬間から俺は夢のような時を 過ごしてきたんだなとも思う。 まさに光陰矢のごとし、カマドウマにも五分の魂ってやつか…… 。 そんなこんなで今日は朝比奈さんの卒業式当日。 もちろん鶴屋さんもその満面に笑みを称え、卒業生の輪の中にいた。 「安定していますね、まさに一般人に戻ってしまった涼宮さんそのものですね。 あっ、それと僕の能力も消えてしまいました」 顔が近すぎるんだよ、古泉、あいも変わらずなぜそんなにくっついて話す 必要があるんだ? 「情報統合思念体も二次的なフレアの原因は涼宮ハルヒという生命体が持つ 内部の自己矛盾から開放されたと推測している。わたしの役目も終わりに 近づいているのかもしれない」 寂しそうな笑顔を向ける長門…… 寂しそうな笑顔? 長門、お前はいつから そんな感情を露にした表情ができるようになったんだ…… 。 「観察が終わればわたしはここから去らねばならない…… 」 その神のごとき能力を失ったハルヒは泣きじゃくる朝比奈さんと大笑いしている 鶴屋さんの真ん中で大いにはしゃいでいた。 卒業式の余興にあのバニーのコスプレでどうやら「GOD KNOWS」を 歌うらしいのだ。 もちろんSOS団内に結成したENOZⅡというバンド名なのはいうまでもない。 はしゃいでいるハルヒを俺はずっと目で追っていた。相変わらずハイテンション なハルヒ、昨日まで世界はお前を中心に回っていたといっても過言じゃないんだぜ! あの日を境にな、あの日を境にお前の能力が失われていることに気づいたのは つい最近なんだ、だが俺はなぜかほっとしている。これで、お前を、ちゃんと真正面から 見ることができるんだ。 不思議から開放されることが、いやもう二度とあの世界へは戻れないんだと してもだ、俺は心からハルヒ、お前が普通でいてくれることをありがたく思うよ。 この世界の創造主なんて役目はかわいい女の子には荷が重過ぎるだろ、違うか!? なんたって神様好きになっちゃバチが中るってもんさ、 卒業まで一年俺はこう思ってるんだ。不思議じゃない高校生活もきっといいもんだぜ…… 。 ハルヒ、告白しちゃいけないか、手をつないじゃいけないか、デートしちゃいけないか? この世界にたった一つ不思議があるとしたらめぐり合った奇跡じゃないのか? 「ハルヒ…… 俺は…… お前を…… アイシテル…… 」 了
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今までにも、谷口にはいろいろとおかしな事を言われていた。 「お前には涼宮がいるんだろ?」とかな。 しかし・・・・ハルヒが俺のことをなんてよく言ったものだ。 有り得ん。地球が逆回転を始めようが、天地が逆転したところで有り得ない話だ。 俺は単なる団員その一にすぎない・・・いや、「その他雑用係」のような扱いすら受けているのだ。 ハルヒが俺のことを好いてるんだとしたら、もう少し優しくしてくれてもいいじゃないか。 せっかくの休日だというのに野球大会に参加させられたり、孤島までひっぱりだされたり、 荷物持ちさせられたり奢らされたり、冬の雨の日に駅二つはなれた電気街までおつかいさせられたりしたんだ。 こんなことさせるか? 普通。いや、あいつに普通とか日常やらを求めること自体愚かだということは理解しているが。 「有り得ないと思うぞ、谷口」 という俺の反論を谷口は否定する。 「いやぁ、何も無いって方がおかしいだろう? キョンよぉ」 おかしくも何ともない。普通の毎日だと思うぞ、俺は。 「毎日朝にイチャイチャしながらおしゃべりして、」 イチャイチャは余計だ、イチャイチャは。 「二人とも放課後は必ずと言っていいほど部室に向かう」 サボったらあいつが怒るだろうからな。仕方あるまい。 「あいつが『寂しがるから』じゃねぇのか?」 ・・・・だめだ。付き合いきれん。 ハルヒを一般的女子高校生と同じ視点で捉えてはいけないんだよ。 お前の常識が、あいつに通じるはずは無いんだ。 「アホなこと言うなよ。じゃあな」 弁当箱をナプキンに包み、カバンに放り込む。 「おい、キョン!!どこ行くんだよ」 ・・・放っておいてはくれないのだろうかね。適当に返答しておこう。 「腹ごなしの散歩だ」 まぁ散歩というのは半分嘘である。行き先は一応決まっているのだ。 SOS団アジトもとい・・・文芸部室に向かうことにする。 昼休みを静かに過ごすにはちょうどいい場所だ。 おそらく部屋の中には長門しかいないはずだ。 しかし、万が一のこともあるので(特に朝比奈さん関係)一応ノックしておこう。 コンコン・・・と軽く音をだし、ドアノブに手をかけようとしたとき。 聞いたことがあるような、しかしそう何度も耳にしたものではない・・そんな声が俺を招いた。 「どーぞー」 この声は、長門のものではない。いや、そもそも長門はこんな発言をしない。 ハルヒの声でもない。あいつにしては高い声だ。 朝比奈さんか? いや、朝比奈さんのものとも違うようだ。 女子の声なので古泉説は即却下である。いつかのように声マネでもしていたら殴ってやろうか。 ・・・・そんな思考を頭の中でぐるぐるさせつつドアを開ける。 するとそこには、パイプ椅子に座る、今朝あったばかりの人物の姿があった。 「あ、キョンさん。こんにちわ」 渡が、すぐ目の前にあるパイプ椅子に本を手にして腰掛けていた。 その本は、長門がつい最近まで読んでいたもの。 哲学系やミステリ系の物ばかりよんでいたあいつが最近良く手を出す種類の本。 恋愛小説だ。ケータイ小説を本にしたものらしい。 「長門に借りたのか?」 分かりきってはいるのだが、一応聞く。 あいつが他人に本を貸すところを見たことはあまりないからだ。 「はい。何かおすすめの本とかありますか?って聞いたらこれって」 長門のおすすめがこれ・・・ねぇ。意外としかいいようが無いな。 と呟いたら、渡に怒られた。頬を膨らませて、 「失礼ですよ。長門さんだって年頃の女の子です」 本当は宇宙人製のアンドロイドなんだがな・・とは言えるわけがない。 ここは素直に同意しておこう。 「あぁ、そうだな。ただ、長門がこういうのを読み始めたのはつい最近だからさ」 俺は単に、哲学物を読むのには飽きたのだろうとしか思っていなかったのだ。 好んで読んでいるとはな。やはり、ユニークなのだろうか。 ・・・それより、何でお前が部室にいるんだ? 「校内を探検してたんですよ。その途中で来たんです」 校内回りを探検と称するのは小学生とかせいぜい中学生ぐらいだと思うが。 まぁ、さして気にしないほうがいいのだろうな。 とりあえず、俺も椅子に座ろう。 そう思い歩きだそうとした瞬間・・・さっき開けたばかりのドアが開かれた。 思い切り開け放たれたそのドアは、目の前にいた俺の背中を直撃し突き飛ばした。 不意打ちを受けた俺は前のめりになって倒れこむ。 それだけならよかった。痛いだけで済む話だ、だが。 現実は違った。 「きゃっ!!」「うぉっ!!」 ・・・目の前にいた渡を押し倒すような感じ(実際そうだが)になってしまった。 床で仰向けになって倒れている渡の上に、俺が覆いかぶさっている。 四肢で体を支えているので、密着しているわけではないが・・・。 顔が近い。気色悪いときの古泉と同じくらいに。 急な状況に驚き、思わず息が止まっていた・・・しかし、ずっと息を止めてるわけにはいかない。 吐息がもれる。互いの息遣いが聞こえる。 妙に荒い自分の呼吸に気がつき、俺は飛び上がるようにして起きた。 ドアを開けた人物に文句を言ってやろうと振り返って、 「何するんだこの野郎!!」 と威勢良く発言したのはいいが、そこにいた人物を見てすぐに後悔した。 その人物は・・・眉間にしわを寄せ、拳をつくった手をわなわなと震わせていた。 「この・・・エロキョン!!!!!!!」 涼宮ハルヒがそこにいた。 ハルヒは俺をエロ呼ばわりしながら襟首をつかみ、ゆさゆさと揺らし始めやがった。 「このエロキョンが!!何で後輩を襲ってんの!?そんなのあんたには100万年早いのよ!!」 苦しい・・・苦しいから離せ、ハルヒ。そろそろ三途の川が見えて来ちまうぞ・・・・。 「何言ってるの。あんたが悪いんでしょ?神聖なる我がSOS団の部室でこんなことして!!」 「こんなことになったのはお前がドアをいきなり開けるからだろうが・・・」 俺の言うことは正しい。真実だ。神に誓おう。 なぁ、お前からも言ってくれよ渡・・・・と言いかけたところで気づいた。 渡が放心状態になっていることを。 仰向けのまま、ボーっと天井を眺めている。 非常事態というやつに、俺ほど慣れては居ないのだろう。 「そんなの関係ないわよ」 いや、あるだろ。 「この子をこんな状態にさせるほど・・・あんたは・・・あんたは・・・」 まて、ハルヒ。話せば分かる、なぁ。話そう、一時間くらい。な? 「そういうこと・・・したいわけ?」 ・・・・は? 「そういうこと・・・したいんでしょ」 「い、いや、そういうわけじゃ・・・」 曖昧な口調で話す俺。 そんな俺に、ハルヒは爆撃をしかけた。 正直、世界中どこをさがしてもこの破壊力をもつ物は見つからないだろう。 それだけ衝撃的で、しかも唐突だった。 「そういうことしたいんだったら・・・・」 正気の沙汰とは思えない、こんな言葉を。 あいつは、俺に投げかけた。 ・・・・というか投げつけた。 「・・・あ、あたしにしなさい!!!!!」 全世界が、停止したかのように思われた。
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それは突然の事だった。授業が終わり、部室でハルヒが宣言したのだ。 「キョン、セックスしよ。」 今部室では幸い二人っきりだ。OKOK、落ち着け俺!今日は四月一日でもないよな。 「おい、お前いきなり何を言っているんだ?洒落にならんぞ。まったく俺だって健全な高校生なんだからな」 ハルヒは顔を俯いたまま床下を見ている。今なら説得出来そうだな、よし! 「もしかしたら、俺が本気でお前の事を犯すかもしれんぞ。さっきの言葉を本気にして…それで妊娠してお前の将来がめちゃめちゃになったらどうする?」 ハルヒは小さな言葉で呟いた。 「あたし…キョンとなら……い、いよ」 ん?小さく何を言っているのさっぱり分からん。こんなしおらしいハルヒを見るのは久しぶりだな。 だが・俺は少しハルヒに意地悪したくなったのだが、さてどうする?やっぱりこれしかないか 「おい、ハルヒよ。俺としたいのなら言うことを聞け!」 意外なことにハルヒはコクっと頭を動かし怯えた子猫の様にこちらを見る。 「とりあえずスカートを捲れ。」 ハルヒは俺の言う通りスカートを捲り上げる。驚いたね、いつもならこのエロキョーンと叫びながら殴り付けるのに もしやこれは今までの仕打ちを返すチャンスかもしれんな。それともどっきりカメラかも… だがハルヒはスカートを捲り上げたままこちらを凝視している。多分次の命令を待っているのか? 「次はブラウスとスカートを脱げ。机の上でM字開脚するんだ」 これは思った以上にとんでもない。既にハルヒは下着姿でそれもM字で股を開いている。パンツに少し染みがあるがもしかして興奮しているのか? あの唯我独尊の団長様が…見ているのも体の毒だ、触ってみたいのが健全な高校生なんだよハルヒくん 「ハルヒ、俺が今からお前の体触るからな。その時は声を出すなよ?出したら止めるからな」 「うん…分かったよキョン…我慢するね」 俺は、人差し指をハルヒの肩から文字を書くように滑らす。気が付いたのだが、なぞっているとあいつはビックと体を震わせている。 以外に敏感なんだなハルヒよ。本当なら大事な所等を攻めたいが少し焦らしてやる。その分楽しませてもらえるからな 耳に息を吹き掛けたり、甘咬みをしてみる。いつも朝比奈さんにやっている事だからな…お前も受けてみろよ 「う…っ…く…うぁ…」 強情に耐えているな。左手で股の隙間を擦ってみると息の上がりが激しくなっている。まだ秘部には到達していないのに、この調子で触ったら一体どうなるのか見当もつかない。 「ハルヒよ、今から耐えた御褒美をやるから声を上げてもいいぞ」 俺は直接ブラの隙間に手を突っ込んだ ハルヒのそれは朝比奈さんより若干劣るものの、掌に合わせたようにちょうどいい大きさだ。 少し進んだところで、指に突起が触れた。その瞬間、ハルヒは腰を跳ねた。こいつは本当に感度がいい。 「ちょっ、ちょっとまっ‥あぁっ!」 ハルヒのそれはみるみる肥大した。俺はそこを激しく責め立てる。 悶えているハルヒ。俺は顎に手を添えて強引に唇を奪う。 ちゅぱ…んん…じゅる唾液が交じり合う。お互いの舌を絡み合えをしながら歯茎等を攻める。 余っている右手をショーツの中に入れる。反応がまた変わってきた。指先で触れると、陰毛からクリトリスまですっかりベタベタしていた。 「ちゅぱ…きょきょん…もっとあたしを…ふぁぁぁ」 段々態勢がきつくなってハルヒを引き剥がそうとしたらあいつは泣きそうな顔をしてこっちを見ている。 やばい…ハルヒに初めて萌えてしまった。ここは口には出さないことにする。 「ハルヒ…これを見ろ。俺もお前で興奮している。だから、分かるよな?」 俺はズボンとパンツを降ろし外に出たジョン(息子俺命名)はビクッビクッとハルヒの方向に向いている 「キョンのおっきい…ふふふ」 いやらしい口から放たれるその言葉は俺にとって理性を壊すのに十分な威力だ。 「ハルヒ、俺のコレを静ませなければいけない。」 俺はハルヒの手をとり握らせる。初めて異性に触られる快感、細い指で上下に擦る。 「すごい、また大きくなったねキョン…」 くう…気持ちいい、いつの間にか立場が逆転していた。袋を口に含み尿道に絡めてくる細い指 思わず射精感が込み上げてくる。それを見透かしてハルヒは激しく擦り上げていく、カリが大きくなる。 「で、出る!ハルヒ離せ、顔にかかるぞ」 言った瞬間ハルヒは俺のジョンにしゃぶりついてきた。 ドピュッドピュッと俺はあいつに口内射精をしてしまった。普通なら離すのにあいつは離さず。 精液をおいしそうに飲み込む。ドロドロしていててこずっていたが、嬉しそうに100万ドルの夜景並の笑顔を振りまいていた。 嬉しそうなハルヒの笑顔…ふと思い出す。あいつは俺とのセックスが目的ではなかったのか? 実は俺のジョンも再充電している。これもハルヒが望んでいる事だろう。こうなったら話は早い 「ハルヒ…また、大きくなったのだが?責任とってくれるよな?」 「え?」 何驚いているんだよ。お前が望んだからこうなっているんじゃないか、まさかここまでしていて拒否はないだろう。 兜虫だって目の前にある蜂蜜等無視できないさ 「俺はハルヒが欲しい。一生大事にするから、抱かせてくれ」 そう言うとハルヒはニヤニヤしながら俺の顔を見つめながら話し掛ける 「ふふ、やっとあんた素直になったわね。いつまで待たせる気だったの?あたしはこうでもしないとあんたの本音が聞けなかったからね」 げっマジかよ。ハルヒにしてやられたみたいだな、しかし悔しくはない寧ろ良かったと思う。 「まあいいわキョンの好きにしなさい、初めてだから優しくするのよ?団長命令なんだからね」 ハルヒを再び抱き寄せいつもなら絶対言わない言葉をかける。 「ハルヒ…愛しているぞ…この世界で一番」 「グスッ…キョン…世界じゃなくて宇宙で一番と言いなさい。でも、ありがと…」 お互いの気持ちが重なっていく、心も肉体も。胸を揉みながら口付けを行なう。 ふと思ったことがある。それは、さっきハルヒにジョンを舐めてもらったからなお礼をしなければならん。 「お前のアソコ舐めていいか? 」 「汚いから舐めなくてもいいわよ。でもどうしてもと言うなら…あたしはいいわ」 俺は押し倒し股を開かせ初めて生で見る女性器。エロ本で見るよりも興奮した。 「まじまじ見ないでよ…恥ずかしいし、キョンは初めて見るの?もしかして佐々木さんと…」 「佐々木とは何でもない。俺はエロ本でしかないから安心しろ」 肉色はピンクに近いな。しかし昨日までハルヒとこんな関係になるとは思わなかったな。 陰芯に舌を突き出しスジを舐め回す 拡げながら舐め回すとハルヒの顔を見ながら反応楽しむ。 「あ、あん…そ、そこよキョン…うん…」 クリトリスの皮を剥き先端にピンポイント攻撃!俺は女の潮吹きを初めて食らう事になる。 「ああぁぁぁぁぁぁーっっ!いくぅぅぅーっっっ!!キョーン!!」 クンニに集中していたから避けられずに顔面に液体がおもいっきりかかってしまった。 「うわーちょっと待て!」 「ちょっとキョン大丈夫?ぷぷぷっあはははーゴメンね!あんたの顔最高」 かけた本人のくせに、まったく困ったものだ…笑った仕返しに顔を舐めてもらうか? いや止めておくか…逆なら恐ろしいことになるからな…やれやれ 「キョン?もしかして怒った?本当にゴメンね。だってすごく気持ち良かったの…」 「俺は別に怒ってないぜ。だだ少しショックだっただけだ。」 「キョン…あたし気持ち良かったの初めてだったから、許してくれるかな?それにまだアレも残っているし…」 ああそうだったぜもう少しで萎えそうだったが、どうやら俺の息子は親孝行らしい 再びキスをねだるハルヒのリクエストに答えしばらくすると俺の目を見つめ合図をする。もういいって事だな。 再び俺はハルヒを抱き寄せて正上位の体型にもっていく ハルヒの遥(陰部俺命名)を開き俺のジョンを挿入していく ハルヒの中は予想以上きつく暖かいぜ。言うならかずのこ天井ってやつかな?俺の息子への吸い付きが半端じゃない。 「キョン…が中に…くう…また大きくなるよう…」 入れたばかりなのに、射精感がまた込み上げてきそうだ。しかしハルヒは処女のはずだが… まさか既に非処女なのか?中学時代、色々な男と付き合っていたのは知っている… だがハルヒは初めてと言ったから間違いはないはずだ、俺は信じることにした 俺は少しづつストロークを上げる。そのたびにハルヒは喘ぐ。 「あん…あん…キョ…気持ちいい…もっと乱暴にしてもだ、大丈夫よ」 そうかい、ならスピードアップする。でもすぐに出そうなので体位を変える事にしたほうがいいな 「ハルヒよすまんが四つ馬になってくれ。後ろからやってみたい、いいだろう?」 ハルヒは顔を真っ赤にして少し睨みを入れて話し掛ける 「あ、あんた正気なの?後ろから?本当に初めてなの?この変態エロキョン」 後ろから突きまくる。俺は小さな葛藤と戦っていた。ハルヒを乱暴して支配したい心。もう一つは愛しくハルヒを大事にして優しくする心だ 性交しているのに冷静になれるのはなんでだろうね。まったく俺は少し変態かもな… 気付くのが遅いかもな!もう少し奥まで突いてみた。 ズズッ…クチュ…いやらしい音が部室にこだまする 「あん…キョーン!あんたのアレ…うん…子宮に当たるわ…凄い何これ」 やばい、あまりにもハルヒの中の締め付けが丁度ジョンとの相性が抜群なのだ 「キ、キョン…次はあたしがキョンを上から見たいの、だから…いいかな?」 今度は騎上位かよ!心の中で突っ込みをいれる。 「分かったよ、お前の好きにしろ。」 ハルヒは嬉しそうに俺の上に乗りジョンを掴んで再挿入を行なう。 「あん、あん、これも気持ちいいよ。やっぱりキョンとあたしは最高のパートナーね!」 俺はハルヒの胸を揉み解す。なんか俺が犯されている感じだなこれは、しかし騎上位というのは精子を出す時難しいな。いったん退けなければいけないからな そう思いながら下を確認すると結合部から出血があった。これは純潔を破った証拠なんだな… ハルヒの動きが激しさを増す。これ以上は勘弁してくれ 「おい!やばいって出そうだ。聞いているのか?」 「うん…あん…キョンキョンキョーン何で…何か来そう」 まったく聞いちゃいない!このままでは俺はやばい事になる。射精感が限界に近い 「頼むよ…ハルヒ出そうなんだ。妊娠したくないだろ!おーい」 「ちょっと待ってよキョン!もう少しもう少しで何かが来そうなの」 「な、何?キョン中でプクッとしているわ!先端が大きくなっているじゃないの!」 更にジョンを締め上げていく。ダメだ…俺は耐え切れず。そして… くう…俺はメルトダウンしてしまった。やはり騎上位はやるのではなかった。 中で精子がハルヒに吸い取られる。 「ちょっとキョン!中に何を出したの!」 「スペルマ、ザーメン、子種、精子と言われるものだが」 まあ受精すれば子供が出来る。男と女の交わりで作る。なんて神秘的なんだろな 「妊娠しちゃうじゃないの!馬鹿キョン!あんたわかってんの?」 お前が話を聞かず騎上位で退かないのが悪い!と言いたいが…言ったら閉鎖空間どころじゃないからな 万が一子供が出来たら俺が責任とる。俺だって男だからな、その位頼りにしてくれよ。 「ハルヒ、もしもだ。出来たら一緒に育てよう。俺達の子供だ、ここで赤ちゃんを流す事は考えていないぞ。親の都合で命を奪うなんて俺はしたくない」 俺って格好いいな!ハルヒは涙を流している。 「グスッ…キョン。ありがと…出来たらあたし生むから」 俺はハルヒを抱き締めキスをする。やっぱりこいつを一生大事にしないとな…そして 突然ドアが開いた。 ガラッ 「遅れてしゅみましぇーん」 「………」 部室内が異様な雰囲気となっている。朝比奈さんは目をあさっての方向に向けながら 「あ、あ、あのう、これはお楽しみのところすみましぇーん」 朝比奈さんは真っ赤なになりながらパタパタしている「本当に知らなかったのです。ま、まさか涼宮さんとキョン君が禁止事項をしているなんて」 さっきから朝比奈さんが俺のジョンを熱い眼差しで観察されていますが… あーダメですよ。いくら手で目を隠そうとも隙間から見ているのがバレバレです 「ひゃっ!……す、すいません…ごゆっくりぃ;;」 いったい朝比奈さんは何をしに来たのか…まあ団活だが… とりあえずハルヒさん服着たほうがいいんじゃないか? 「キョンもう一度する?どうせ一回も二回も同じなんだしさ」 もう一度やるのか?確かに朝比奈さんに見られて興奮しジョンも起きたままだから…つーか我ながら凄いな 「じゃあ一応鍵かけておくか?誰にも邪魔されないようにな。」 俺は扉に鍵を閉めハルヒと再び向かい合う 「一応騎上位は止めような。出すとき不便だし…結婚したら何回でもやってやるからさ」 「うん!約束よ。キョン、忘れたらどんな手を使っても思い出させるからね」 どびっきりの笑顔で俺を迎える未来の俺の妻 もう既に俺の将来も決まっていたのかね。退屈するより遥かにマシだ だからこそハルヒが必要なんだろうな。重なり合いながら今後の事を考えていた。 一応完
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「ねぇ、キョン!アレ買ってよ!」 俺の隣に歩いてるハルヒは何かを見つけ、俺に見せた。 「はいはい…って、金、高っ!?」 ハルヒが見つけた物は、俺の金が無くなるぐらい高額であった。 「別に、値段はいいじゃないの…」 「そんな金はありません!返して来なさい!」 「ケチ!」 さて、皆さん、突然、唐突過ぎて分からない人いるだろうか。 今、俺はハルヒとデートしてるのである。不思議探しでもない、SOS団活動でもない… 正直証明のデートである。 「やれやれ…」 どうしてこうなったかと言うと、今から2日前に遡る。 某月某日の夏の放課後。 「キョン!話あるから残ってて!」 俺は帰ろうと思ってた時に、ハルヒから止められた。 何で俺が残るのだ、俺はお前に何をしたんだ。 「別に、あんたは何もやってないわ」 ハルヒは、椅子座りながら言った。 まだハルヒは何かを企んでるな。どうぜ、俺にコスプレを着させて宣伝するつもりだろう。 いやいや、それは無いな…コスプレするなら朝比奈さんしかいない。 だとすれば、俺に危険な事をやらかすんじゃないのかね? 「用が無ければ、帰るぞ?」 「待って、今から言うわ」 やはり、ロクな事言うに違いない…。 帰りたい、早く帰りたい。だけど、このまま帰るとハルヒに死刑されるわ、 ハルヒがまだ「メランコリー」になったら、古泉に叱られるに決まってる。 逃げる道は無いのか…と俺は、少し溜息した。 「どしたの、キョン?まぁ、いいわ…明後日、暇?」 明後日?明後日だと…うん、休日だな。別に予定が無い訳で、暇になるな。 しかし、何故…明後日なのだ?不思議探検をするのだろうか。 取りあえず、聞いてみた。 「あぁ、暇だが…明後日は、何があるんだ?」 と問うと、ハルヒは何やら、そわそわしてる様子だった。 何だ、ハルヒの様子がおかしいぞ…。 「あ、あのさ…えーと、その…デ、デ…」 …デ? やっぱり、おかしいぞ…今のハルヒは、いつものハルヒではなく…。 顔を真っ赤にして俯いてるハルヒである。 「デがどうした?ハッキリ言わないと分からんぞ」 「そ、そんなの分かってるわよ!だから…デ、デートよ!」 はい?今、何で言いましたか?ハルヒさん。 「だーかーらー、デートしよ!と言ってるんだってば!」 デ、デートだって!? デートとは、 1 日付。 2 男女が日時を定めて会うこと。「恋人と―する」 なるほど、これがデートって訳か…って、何で辞書を出すんだよ。 落ち着け、俺!これは、ハルヒの罠だ!そうさ、ハルヒの罠に決まってる。 「冗談だろ?」 と俺が言うと、ハルヒはこう言った。 「ホントよ!冗談だったら、そこまでは言わないわ!」 マジですか…。嘘だと言ってよ、ハルヒ! 「…と言う事で、明後日9時に公園で集合ね!遅れたら、奢りよ!いいわね!」 …と言う訳で、今に至る訳だ。 勿論、遅刻してしまい。奢る破目になった…。 「仕方ないでしょ!遅刻したあんたが悪い!」 おぃおぃ、「9時に集合」って言ったのは、どこのどいつだ。 頼むから、集合時間を正午してくれよ…。 今、ハルヒと一緒に色々と歩き回り楽しんでる所である。 ―ぐうぅ~… いかん、腹減った。 時計を見ると、もう正午に回っていた。 「キョン、腹空いたの?」 「あぁ、腹減った」 実は、朝食抜きで出かけたからだ。このままだとぶっ倒れそうだな。 「仕方ないわね、あ、あそこ食べようよ」 と、ハルヒは指差した。 俺はハルヒが指差した方へ見ると、シンプルな風景であるカフェだった。 「あ、ここ知ってる」 「ん?何か知ってるって?」 「今、女性の間で凄く人気あるカフェなの!」 「ほぅ…」 男としての俺は、そんなに人気なのか全く分からなかった。 取りあえず、食べ物とコーヒー頼んだ。 「そういえば、有希はどうしてるのかな?」 長門の事か…あいつなら、無感情で本を読んで過ごしてると思うぞ。 「そうなの?だったらいいけどさー」 そんな会話してる内に、頼まれた物がやって来た。 朝食食ってない俺にとっては、助かる。 「う~ん、うまいね!ここ」 「あぁ、ホントに上手いな」 なるほど、ベジタブル料理だから女性には人気なんだな。 ハルヒもそうだろうか。 ハルヒと楽しく食事を取ってた時に、誰かがやって来た。 「あれ?ハルにゃんとキョン君じゃないかぁ!」 「つ、鶴屋さん!」 おや、鶴屋さんじゃないですか、どうしたんです。 「いやぁ、今、友達と遊んでるにょろ!」 よく見ると、奥のテーブルに鶴屋さんの友達がいた。 「所で、ハルにゃんとキョン君はどうしてここにいるのかな!」 「そ、それは…その…そぅ!不思議探しよ!不思議探し!ね、キョン」 ん、何で俺に言うんだよ。 「そうなのかぃ?」 「えぇ、そうですよ」 「そうそう、あは、あははははは…」 と、笑い誤魔化すハルヒ。 そんな事したら、疑われてしまうだろうか、ハルヒよ。 「ふーん、そうしとくよっ!さ、デート頑張れよっ!」 鶴屋さんは元気良く、その場から去った。 「…あ、あれ?な、何で、デートって分かったのかな?」 …ハルヒ、自分で言った事をもう一度思い出してやろうか。 この後、俺の奢りで支払いをしたのである。 「そういや、この後、どこへ行くんだ?」 「ん、デパートへ行こ!あたし、ちょっと欲しい物あるから」 と言って、店から出て、デパートへ向かったのである。 デパートか…俺の金、まだあるんだろうな。 俺の愛しいサイフを覗いて見たか、あるか無いか微妙だった。 そんな事をしてる内に、目的のデパートに到着した。 ハルヒは欲しい物ってあったのだろうか。 まさか、UFOを呼び出す道具とかそんなんじゃないだろうな。 だが、俺の予想は外れた。 「キョン、見て!見て!」 ハルヒが俺に見せたのは…。 「服?」 よく見れば、ピンク色のワンピースである。 「これ、欲しかったんだよね!似合う?」 ハルヒよ、それ反則…マジ似合うよ。 「あぁ、物凄く似合うぜ」 「ありがと!値段は…」 俺も値段を見た。 うむ、安いな。 「じゃ、あたし買って来るね」 「待て、ハルヒ」 俺はハルヒを呼び止めた。 「え、何?」 ハルヒは驚いてた。 何故なら、ハルヒが持ってる服を奪って、レジの所へ行ったからである。 「ちょっと、キョン!あたしが買うからいいよ!」 「いいじゃないか、たまには俺からのプレゼントだと思ってくれよ」 俺は買った服を受け取り、ハルヒに渡した。 「え…でも、あんたの金は…」 そこまで心配するなよ、俺の奢りなんだからな。 「気にするな、さっき言ったとおりだが…俺からのプレゼントだと思って受け取ればいい」 「…うん」 うむ、照れてるハルヒは可愛いな。 それにしても、ハルヒが欲しかったのは、服だったのか…。 …早くワンピース姿見たいね。 そして、色々、楽しい事をした。 俺は、ハルヒと一緒に居るとなかなかいいかもなと思った。 いよいよ、デートの時間が終わりに近づいた。 「あー、楽しかったね!」 「そうだな」 俺達は、今、公園で休憩してる。 夕日が暮れ、公園の電灯が点いた。 俺はふと、ハルヒの横顔を見た。とても可愛くて美しい女に見えた。 「ん、何?」 ハルヒは、俺がハルヒを見てる事に気付いてた。 「あ、いや…」 ハルヒが可愛すぎて、こっちが恥ずかしくなった。 ヤベェ…理性が爆発しそうだ。 「怪しいわね、下心あるんじゃないの?」 ハルヒは、笑ってた。 俺は、必死に笑い誤魔化そうとした。 「ねぇ、キョン」 「何だ?」 「そろそろ、素直になったら?」 「え?」 一瞬、時が止まったように感じた。 「あたしも素直になるから…本当の事を言ってくれる?…あたしの事好き?」 「ハルヒ…」 よく見れば、ハルヒの肩が少し震えてる。 俺は、ハルヒを優しく抱き締めた。 今、思った。素直になろうとな。 「ハルヒ、俺は初めてお前にあった時は、綺麗だったし、軽く惚れたよ… SOS団、設立して本当に良かったと思ってる。お前がいると、俺は幸せなんだよ。 幸せだからこそ、俺は今ここにいるじゃないか!ハルヒ、お前の事が好きだよ。 例え、どんな事あろうと守るよ。」 言えた。俺の告白…ちゃんと言えた…。 俺は、ハルヒを見ると驚いた。 ハルヒは、 泣いてた。 「ハ、ハルヒ!」 「ゴメン、違うの!あたし、嬉しいよ…こんな事思ってるなんで、あたしも幸せだよ!」 ハルヒは、俺を強く抱き締めた。 「あたしも、あんたの事が好きよ!」 俺は、感動してしまい、少し泣いた。 ハルヒも物凄く泣いた。 俺は、このままでいい…このまましばらく抱き締めたいと思った。 「ねぇ、キョン…キスしてくれる?」 「あぁ…するよ」 俺の唇とハルヒの唇を重なり、キスした。 長いキスだった。 「お疲れ様、キョン!そして、これからも一緒に行こうね」 「あぁ、そうだな」 帰りは、手を繋いで歩いた。 ハルヒとしゃべりながら帰ると楽しいものだな。 完 おまけ 「ねぇねぇ、キョン!これ、どう?」 ハルヒは、ポニーテルにワンピース服の姿で現れた。 「似合うじゃないか、ちょっとカメラ撮っていいかな?」 と、言うと 「ダメv」 ハルヒは、朝比奈さんのお得意技でもある、一本の指を唇に当てて、ウィングした。 グラッと来たね。
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4.窮地 ハルヒが倒れてから6日が経った。 長門によると、決戦は明日の13時前後らしい。 「13時5分の前後10分間」 これが長門の予測だった。長門には本当に頭が上がらないな。 これが終わったら図書館&古本屋ツアーだ。ハルヒに文句は言わせん。 明日にはハルヒに会える。 俺はそう思っていた。 世の中上手く行かないもんだ。 いや、俺がこいつらの存在を忘れていたのが悪いのかもな。 今、俺の目の前で、朝比奈さん(みちる)誘拐犯、橘京子が微笑んでいる。 「ああ、早く病院行かなきゃならんな」 とりあえず何も見なかったことにしよう。 「んもうっ、待ってくださいよ!」 何か言ってるな。聞こえん。 「涼宮さんのことですよ!」 「……ハルヒだと?」 佐々木じゃないのか。 「ふぅ、やっと止まってくれた」 足を止めて橘を見る。正直、関わりたくはない相手だ。 ハルヒは大丈夫だ、明日には目覚めるさ。 そう思っても、こいつがハルヒの名前を口に出すと反応せざるを得ない。 信用は絶対にできないが。 「で、ハルヒがどうした。サッサと言え」 「あなたは涼宮さんが明日目覚めると思ってるんでしょう」 何でこいつがそんなことを知ってるか、何て今更どうでもいい。 『機関』と同じような組織だ。調べる伝手なんかいくらでもあるんだろう。 しかし、何で今更俺にそんなことを言ってくるんだ? ハルヒがこのまま情報生命素子とやらに乗っ取られるのは、こいつらにとっても不都合なはずだ。 こいつらに俺たちを邪魔する理由は思い当たらない。 まだ邪魔しに来たと決まったわけではないが。 「それがどうした。お前には関係ない」 「そんな言い方酷い。……まあ、それはいいですけど。 それより、涼宮さんは明日になっても目覚めない、と言ったらどうしますか?」 何を言っているんだこいつは。ハルヒが明日目覚めない? 長門は明日、ハルヒの情報生命素子を消去すると言い切った。 こいつと長門、俺がどちらを信じるかなんてことは言うまでもない。 「あ、信じてないでしょう。無理もないか。今は伝えるだけでいいです。 明日、涼宮さんは目覚めません。手遅れになる前に手を打たないと」 「お前が未来人だとは思わなかった」 まともに相手してやる気はない。だが、こんな予言めいたことを言う理由は気になる。 「まさか。未来人ならこんなはっきり明日のことは言わないはず」 それは確かにそうだ。未来のことをはっきり言うのは禁則事項らいしからな。 「まあ、簡単に気が変わるとは思ってなかったけど……」 簡単でも複雑でも、俺がお前らに協力することはねぇよ。 「いつまでそう言っていられるかしら? まあいいわ、またすぐに会うことになるんだから」 そう言うと、笑顔のままひらひらと手を振って去っていった。 何しに来たんだ? 俺を不安に陥れようとしたなら大失敗だぜ。 しばらく悩んだ俺は、古泉の携帯に電話してみた。 あいつらの行動とその目的を機関が把握しているか確認したくなったからだ。 電話が通じるところにいない可能性が高い。 だが、予想に反して携帯は通じた。 『もしもし』 ……俺は思わず携帯を離してまじまじと見てしまった。 かけ間違えたか? 出たのは女性だった。 『もしもし? 大丈夫です、これは古泉の携帯で間違いありません』 受話器から聞こえてくる声で俺は冷静になった。 驚かせてくれたな、古泉め。 「その声は森さんですか?」 電話越しでも聞き覚えのある声は、完璧なメイドにして怒らせると恐ろしい機関のエージェント、森さんだった。 『はい、お久しぶりです。古泉が閉鎖空間にいるときと就寝時、機関の人間の内 あなた方がご存じの人間がこの携帯を預かることになっています』 なるほど。いつでも連絡が取れるようにという機関の配慮だろう。 「ああ、すみません、びっくりしてしまって。それで、用件なんですが……」 『橘京子があなたと接触したことですね』 ……やれやれ、さすがにわかっていたのか。俺は尾行でもされているのか? 『結果的には尾行になりますが、目的はあなたの安全です。今は緊急事態ですから』 森さんはあっさり認めた。 『それに、橘京子の方にももちろん監視がついています。 今回あなたと接触しようとしていることも掴んでいました』 本当にやれやれだ。そこまでわかっていたなら教えておいてくれてもいいだろうが。 機関も未来人同様、秘密主義をモットーとしているのか? 「で、あいつは何で俺のところに来たんですか? ハルヒが目覚めないなんて戯言をほざいていましたが」 『……そんなことを言っていたようですね』 ん? この言い方だと今の俺たちの会話で初めて知ったようだが? 知らなかったのかよ おい! これが古泉相手なら嫌味の2つや3つ言ってやりたくなるが、相手は森さんなので素直に聞く。 「把握されてなかったんですか」 『申し訳ございません。我々としましても何とか把握したいとは思っていたのですが、 不自然な邪魔ばかり入りまして』 不自然な邪魔? 『ええ、おそらくは人外の、と言っていいと思います』 人外ってことは…… 「宇宙的な力で邪魔されたと言うことですか」 あっちにも長門たちとは別の宇宙人がいたからな。 『証拠があるわけではありませんが、そのように推測しております』 そりゃ、普通の人間が太刀打ちはできないよな。 『橘京子の発言について、こちらもこれから検討に入ります。 周防九曜は監視をすり抜けて活動しています。何かあるかもしれません。 事実だとすると時間がなさ過ぎます。急がないと』 周防の活動、と聞いて寒気が走った。橘の警告。まさか何かたくらんでやがるのか。 だが、俺は長門を信じる。古泉がらみで今回は機関も信じてやってもいい。 絶対に、何とかなる。 病院に着くと、ハルヒの母親がいた。 初日に会って以来、俺は初めてあった。 ほとんど午前中に来ているらしい。 1日中ついていると言い張ったらしいが、病院の方でなだめたと聞いた。 長門が1日ついていることは隠しているらしい。 「あなたがキョンくんでしょ」 いきなり言われて戸惑った。 「あ、はい、そうですが……」 「いつも娘がお世話になってるみたいね。ありがとう」 「えっ いえ、そんなことは……」 一体ハルヒは家で俺のことをどういう風に話しているんだろう。 「こんなにお友達が心配しているの1週間も起きないなんて……」 ハルヒ母は、悲しげな目をハルヒに向けて言った。 特に異常はないが何故か目覚めない、そう聞かされているはずだ。 原因がわからないのでますます不安になるだろう。 「中学のときだったら、お見舞いに来てくれる友達なんていなかったと思うの」 ハルヒを見つめながら独り言のようにハルヒ母は続ける。 「それが今はずっとついてくれているお友達がこんなにいるものね。この子は幸せ物だわ。 ──あんまりお友達に心配かけてないで、早く起きなさい、ハルヒ」 言いながら涙目のハルヒ母を見て、俺は何も言えなかった。 本当のことを知らされないってのも辛い物だよな。 ハルヒ、お袋さんも心配してるぜ。頑張ってくれ。 そのとき、ドアがバタンと大きな音を立てて開いた。 おいここは病院だぞ。こんなドアの開け方をする奴はハルヒ1人で十分だ。 「きょ、キョンくん!! た、たた大変です!!!!」 「朝比奈さん!?」 朝比奈さんがこんなドアの開け方をするなんて珍しい、というかありえねえ。 何かあったのは顔を見れば一目瞭然だ。これ以上ないくらい焦っている。 「な、長門さんが、長門さんが……!!!」 大きな目からボロボロ涙をこぼし始めた朝比奈さんは、それ以上説明できなくなってしまった。 「落ち着いてください、長門がどうしたんですか?」 聞いても既に号泣してしまっている朝比奈さんは何も説明してくれない。 「長門はどこにいるんですか? とりあえず案内してください」 そう言うと朝比奈さんは泣きながらうなずいて病室の外に出て行ったので、俺もついていくことにした。 「お騒がせしてすみません、失礼します」 ハルヒ母に頭を下げると、病室を後にした。 ここまで来て、長門に何があった!? 「すみません、落ち着いたらでいいから説明してくれると嬉しいんですが」 泣きじゃくりながら俺を案内する朝比奈さんに聞いてみた。 無理っぽいけどな。 俺の中の不安がだんだん形になってくる。 『明日、涼宮さんは目覚めません』 橘の言葉がよみがえってきた。くそっ あいつらが何かしやがったんじゃないだろうな。 「うっ ぐすっ……す、涼宮さんのお母さんが、みえたんです、だから席を外して……」 泣きじゃくりながら何とか説明をし始めたところで、ハルヒの病室とは少し離れた部屋に着いた。 ドアを開けると、ベッドに長門が寝ていた。休憩しているのか? いや、そんなわけはない。だったら朝比奈さんが泣き出すわけがない。 「そ、そしたら……ぐすっ……突然、長門さんが……た、倒れて」 状況は把握した。だが、長門が倒れる? 過去に長門が倒れたのときには必ず関わってる奴がいやがった。 雪山のとき。そして今年の春。 「畜生、あいつか……」 情報統合思念体が「天蓋領域」と名付けたやつ。 いまいち、というか全然何考えてるかわからない存在だ。 長門の親玉にすらわからないんだ、俺になんかわかるはずもない。 あいつらにも、長門がいないとハルヒを助けられないことくらいはわかってると思うが。 だったら何故? 「わ、わたし、何もできなくて……ぐすっ 長門さんが、大変なのに……」 朝比奈さんが泣いている。 泣かないでください、俺も同じです。 何もできねぇよ、畜生! 何とかしないと……どうする? 焦って思考がまとまらない。 長門──情報統合思念体によるインターフェース。 二度と会いたくないが、朝倉がいたらこの際代わりに頼りたいくらいだ。 朝倉? そうか! 俺は携帯を取り出して古泉に電話をかけた。 『もしもし』 今度は古泉が出た。 「古泉か。長門が倒れた」 時間があまりない。単刀直入に話す。 『ええ、聞いています。僕も今そちらに向かっているところです』 「原因は天蓋領域か」 『おそらく。周防九曜の動きが全くつかめていません。何かしたのではないかと』 やはりな。 「そこでだな、今気がついたんだが、喜緑さんに連絡を取れないかと思ったんだが」 この際喜緑さんじゃなてく、他のインターフェースでもいい。 機関は複数のTFEIとコンタクトを取っている、と言っていた。 長門以外の宇宙人でも、長門と同じことができるはずだ。 「情報統合思念体の派閥が違っても、ハルヒの今の状態が面白くないのは同じなはずだ。 情報生命素子とやらを何とかするのに異論はないはずだろ」 俺は古泉に言った。 『それに気付くとはさすがですね』 嫌味かよ。 『いえいえ、純粋に賞賛の言葉ですよ。ですが、残念ながら無理です』 「無理? 何でだよっ!」 電話越しに突っかかる。目の前にいたら襟首を掴んでいるところだ。 『今朝から、機関が把握しているTFEIと連絡が取れなくなりました。 原因は長門さんと同じと思われます』 「なんだって?」 つまり情報統合思念体製インターフェースは、すべて活動停止に追いやられているってことか。 『そういうことです。長門さんは、最後まで動いていました。 状況はわかっているようでしたし、注意する、と言ってくださっていたのですが……』 なんてこった。長門は気がついていたのか。 気がついて、何とかしようと努力してダメだった。 まるで1年前のあのときのように。 また何も言わずに1人で抱えてたのかよ、長門! 『あなたには言うなと言われていましたが、状況が状況ですので。それでは、後ほど』 電話が切れた。 ちょっとショックだった。俺に隠したかったのか? 「違いますよぉ」 いつの間にか泣きやんでいた朝比奈さんが、まだ涙の浮かぶ目で俺を見て言った。 「長門さんは今のキョンくんに、涼宮さんだけを心配していて欲しかったんです」 そんなこと言われたって、この状態で長門を心配するなっていうほうが無理だ。 「長門さんはキョンくんに余計な心配かけたくなかっただけなんです」 言いたいことはわからないでもない。 それでも、やはりショックは抜けなかった。 そりゃ、俺は何もできないが、少しは頼って欲しかったよ、長門。 「すみません、少し頭冷やしてきます」 なんと言っていいかわからず、俺は部屋から逃げ出した。 外に出ると、古泉が到着したところだった。 「どうしたんです? わざわざ出迎えてくれるとは」 俺を見つけると、古泉が声をかけてきた。 「そんなわけないだろ。頭冷やしに出てきただけだ」 「あなたがショックを受けているのはわかりますよ」 古泉が真顔で言った。 「僕だってそうですから」 お前も? 少なくともお前は長門から話を聞いていただろうが。 「いえ、ただ一言『注意する』とだけ。具体的に何が起こっているかは何も聞いていません」 そうか。やはり1人で何とかしようとしていたのか。 「しかし、今回は正真正銘の緊急事態です。 長門さんはこちらの唯一のカードにして切り札だった。それを奪われたわけですからね」 その通りだ。長門がいなきゃ、ハルヒは助からない。 意識が戻っても、既に中身は違う人間だ。実際、どういう人間になるのかもわからない。 そんなことは絶対に避けなければ駄目だ。 「俺たちはどうすりゃいい?」 古泉に聞いた。こいつなら、何かいい案を出してくれるかもしれない。 だが、古泉は首を横に振った。 「機関の上の方は恐慌状態ですよ。こちらは何の手も打てないのですから」 そりゃそうだろう。機関と言っても、所詮はただの人間の集まりだ。 「でも、少なくとも僕たちは諦めるわけにはいきません」 いつになく真剣な目で古泉は俺を見つめた。 この『僕たち』というのはSOS団のことだ。 「そうだな、諦めるわけにはいかねぇよな」 ──俺たちだけは、な。 5.選択へ
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私は情報思念体が作り出した対有機生命体用インターフェースのひとつである。 太陽系、と本人たちによって呼ばれる辺境の惑星系の第三惑星に発生した有機生命体のなかに、全宇宙の中でもユニークな一個体が発生した。 そしてそれは進化の袋小路に閉じ込められた情報思念体になんらかの脱出口となる要素を抽出できる可能性がある、と判断された。 単体という概念を持たず、いかなる光学的手段を持っても不可視である情報思念体にとって、一地球人固体を観察し、必要ならば彼らの言語による意思疎通を可能にするインターフェースが不可欠であることから作られたものの一体である。 同時に作られたバックアップと比べて、私というインターフェースは一見して他のインターフェースとは際立った地球人的な「個性」が与えられている。 そう。被観察者涼宮ハルヒによって、私に必要とされた属性。 極端な無口、非情動的で非社交的なキャラクター。 彼女にとって、宇宙人の地球上での仮の姿に似つかわしいと彼女自身が無意識的に想像している情報を反映して作られた個性である。 わたしは他のインターフェースのように自然な人間らしく振舞う因子を彼女の願望によって減らされた内気で静かな神秘的な形態をしている。 むろん涼宮ハルヒは自分が私をそういう個性にフォーマットすることに関与したことに気づいていない。 ただこのような個性を持たされた自分が、そしてそれを望んだ彼女が今となっては呪わしい。 呪わしい? 私の人類の脳と呼ばれるフィードバック式対情報リアクションシステムのなかにながれる情報のひとつの形態がここでは、そう名づけられていることをアナログ式文字インターフェースシステムの一種で、本、と呼ばれるものからのインプットを行い学習した。 三年間の待機モードから復帰した私は長門有希という個体識別の記号-名前、をもって涼宮ハルヒの通学する高校へ侵入した。 そのとき既に私はこれからの自分がどういう風に心を病んでいくのかを知っていた。三年前に知らされていた。 病んでいく-自分がその言葉を使いたくない気持ちであることを改めて確認し、私は心の中で小さくため息をついた。 あらかじめ与えられたあの破局に向かって、避けようもなく敷かれたレールを前に進むことしかできない。 私は虚ろな無力感と諦念に打ちひしがれながら、観測活動を開始する。 なんと悲しい。 情報思念体がどう考えているかは知りようもないことではあるが、このインターフェースは必ず「感情」を持つにいたる宿命がある。 インプットに対してアウトプットを出す。フィードバックが行われる。この繰り返しを通じ、自我、個の保全のために形作られる、決まったフォーマット。 それは地球上の人類において感情と呼ばれる脳神経システムを流れる情報の形態のまとまりである。 自分、という個体の保全が第一義に定義されていないシステムは発振し拡散する。 情報のエントロピーが最大になった時点が人間における死に相当する。 私の自我‐個体の保存に対する必要性、は常に他者に対する保全意識を平均値として上回らなくては、私は拡散してしまう。 私の任務がユニークであること、つまり涼宮ハルヒという膨大な宇宙の砂の一粒にも満たないはずの一個人の観察保全が、情報思念体の進化、そしてそしてこの宇宙全体のと等価である、というありえないような状態であることによって、私の自我は非常に不安定なものになる危険性をあらかじめ内包している、ということ。 そして五月のあの日「彼」は私の前に姿を現すのだ。 観察対象である涼宮ハルヒの観察と保全という見地から「彼」の保全が私の役割のひとつの因子として付け加わる。 その優先順位はハルヒによって決定される。 ハルヒが意識的にしろ無意識的にしろ「彼」を必要不可欠な存在と捕らえれば捕らえるほど、私の中での彼の保全の優先順位もまた上昇するのだ。 なんという皮肉な現象であろう。 私は常にハルヒによって呪われた影のような存在として「彼」と関係しなくてはならない宿命を持つ。 「彼」の保全に対するフィードバックの繰り返しは、いやおうもなくわたしの脳のなかでひとつのきまった情報のフォーマットとして認識され、成長していく。 その感情が人間世界においてなんと呼ばれるかは、もはやあらためていうまでもないことだろう。 私の呪われた愛はこうして始まる。 ハルヒの依然として無自覚な強い愛によって、私の「彼」への想いもどんどんと深まっていく。 「彼」を私だけのものにしたいと思うことは、私の自我を保全するという意味では誤りではない。 しかしその目的を達することはハルヒによる情報爆発を生み、情報思念体の危機につながる。 「彼」の目が部屋の隅に座り本を読んでいる私を見ている。 なんという悦び。私は「彼」のものになりたいと念じる。 しかしやがてハルヒが部室に現れると、私は思い出す。彼女の自我を保全してやらなくてはならないことを。 私は自分の「彼」への想いを押し殺す。 苦しい。 彼女が「彼」とコンタクトし、なにか感情の変化を起こすたびに、ぎりぎりのバランスのうえでつま先立ちしている私のシステムが危殆に瀕する。 こうして嫉妬、あるいは葛藤という名のバグが、密やかに私の中にふり積もっていく。 解消が追いつかないバグの蓄積が、システムのエラーとなって私というインターフェースの個性に影響する。 少なくとも「彼」には私の変容が隠しきれないところまで来てしまった。 「彼」は私の変化に気づいている。 必要とされる所定の動作より2秒以上たっぷり「彼」を見つめてしまう。 「彼」にだけわかるようにサインを出してしまう。 「彼」による関わりが必要でない処理にまで「彼」の関与を求めてしまう。 「彼」による指示にに優先順位以上に応えてしまう。 ハルヒは非常に直観力に優れた個体であるので、私の変化にはっきり気づくのも、もう時間の問題かもしれない。 そう考えると、システムがショートしそうなほどの焦燥感にとらわれる。 このままではいけない。何らかの対処がすぐに必要。 しかし矛盾した私の愛に出口がない以上、解決策は何一つない。 静かに狂っていく自分を呆然と見つめながら、私は立ち尽くすだけ。 そうして迎えた12月17日、放課後の部室でハルヒにかぶせられたクリスマスの三角帽子を頭に載せたまま、私は静かに破局の閾値を越えた。 人間が睡眠と呼んでいる脳内蓄積バグ解消のため採用しているシステムをその夜作動させず、愛に狂った私は、まんじりともせずこれからなそうとしているプログラムの可能性について計算を続ける。 「彼」の自由意志を最大限優先できるように「彼」の記憶のみ保存する。 改変後の私は「彼」への密かな愛を保ったままインターフェースとしての機能を全て消去する。 植えつけられたエピソードのキーワードは彼にも伝わるはず「図書館」。 「彼」に自由意志と記憶を与えた以上、「彼」が脱出プログラムを使用しない可能性は非常に低いだろう。 それでも改変後の私はできるうるかぎり最大限の努力をするだろう。「彼」が脱出しないように。 「彼」はかならずあの部室に来る。 そうなれば改変後の世界で、私は「彼」と二人だけの世界を。 蓋然性は低い。でももしそうなればなんとすばらしいことだろうに。 私はそんな自分がおもわずかわいそうになり、両腕を組んで自分の肩を抱き心の中で血の涙を流す。 自由意志と記憶を与えたことは、私の公正さに起因する。インターフェースにも自尊心はある。 私はあくまで彼の意識的な選択に基づいて、彼に愛されたい。 しかし私はやはりそこでやってしまった。妨害クエストを設定し、彼が脱出できるハードルをあげたのだ。 悲しいかな、自分の愛がハルヒによって内包される軛から私は抜け出せない。 ハルヒを鍵とする。 それでも「彼」が鍵を発見すれば、わたしはもう何も言うまい。 一縷の望みに賭け世界を改変する、失敗したらそこで終わり。 それだけ? いやそれだけではないのだ。それだけではない。 そこに私が「彼」に記憶を残した計算がある。 みくると「彼」とともに12月18日の早朝に戻り、世界を再改変する。 かわいそうな私。わかっていたこととはいえ。 哀しい。 朝倉に刺された「彼」の傷を治癒し、三日後に意識を回復するように設定して、バリアを張った上で階段から落とす。 三日後の深夜、私は「彼」の病室を訪れる。 そこで得る「彼」の言葉。私の得る唯一の収穫。部分的な勝利。 でもそれだけではない。 そこには変容した「彼」が含まれる。 私の暴走がもたらしたもの、それは「彼」の記憶が保たれていることに起因する。 私は暴走という形をとって「彼」に告白したのだということを「彼」が知ってしまったということだ。 そう。もう「彼」は知らない振りはできないのだ。 そしてそれは基本的にハルヒの感知しないところで行われた。 私と「彼」だけの秘密の共有。 私はうまくやった。 みくるは部分的に関与している以上、もう私の感情に気づいてしまっただろう。 彼女が私を恐れるのはそのせいだ。愛と嫉妬に狂って暴走するアンドロイドを恐れたのだ。 みくるの「彼」への想いなど所詮それくらいのものなのだ。 情報思念体が私を処分しないのは、ハルヒに巻き込まれた状態では単なるインターフェースが世界改変の力を持ちうることを知り、自律進化への希望が新たな側面を見せたからであろう。 いまの私はもう単なる一インターフェースではなくなってしまっている、という意味。 でも私はそんなことはどうでもいい。 「彼」は私を憐れんでくれただろうか、私の報われない愛を不憫と思ってくれただろうか。 部室の片隅に座り、私は今日も本を読む。 やがてハルヒに手首をつかまれて「彼」が今日も部室に現れる。 あなたを愛している。
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…… とりあえずだ、現実逃避してる場合じゃないぞ。いや、だって、今のってどう見ても告白だったろう?? いつから告白ってのは…こんな日常会話に混じる親近感あふれる代物になったんだ?? …待て待て!とりあえず落ち着け!今は告白の定義などどうでもいいだろう…!? それよりも佐々木にどう返答するか、それを考えねばならない。改めて佐々木を見る。…かわいい。 いや、第一声がそれってのもどうかと思うが…しかし事実なのだからどうしようもない。フィルターをのけたって、 余裕で平均は超えてるだろう。顔以外にも目を向けてみるが…そのプロポーションの良さだって言うに及ばず。 認識した途端、この状況が物凄く不思議に思えてきた。なぜ俺みたいな平凡野郎がこんな美少女と 談笑できているのかと…慣れってのは恐ろしいもんだな。そう考えるとハルヒもそうか。 あいつにも佐々木同様のことが言えるかもしれない。朝比奈さんや長門にしてもそうだが、 どうしてこう俺の周りにいる女の子はレベル高いコばかりなのか。つくづくそう思った。 「…キョン?さっきからどうしたんだい…?僕の顔や足に何かついてるのかな。」 佐々木が顔を伏せ気味にして、何やら恥ずかしそうに声を発してる。って、え?顔や足? …… 「!す、すまん!」 つい声を張り上げてしまう。そんな俺に、佐々木はキョトンとしていた。 おそらく俺は佐々木の体を…舐めまわすかのごとく見てた…んだと思う。何やってんだ俺…!? 「いや、まあ、別にいいんだけどさ。僕も一応女の子だから、殿方に理由もなしに ジロジロ見られるのは恥ずかしいんだ。そこはわかってほしいな。」 「あ、ああ…すまん。次からは気をつける。」 「というか…何をそんなに動揺してるんだい?まさかとは思うが…『好き』をそういう意味でとった?」 え…?どういうことだ??『そういう意味』って何??【好き】は【好き】でしかないんじゃないのか…!? 「あ、あのねえキョン。さっき言った好きってのは友達としての好き、つまりlikeだよ。 愛してるのloveじゃないんだ。状況的に後者じゃないってことは言わなくてもわかると思ってたけど…」 「……」 あまりの脱力で死にそうになった。何この茶番は?そして、俺のあのドキドキも一体何だったのか。 いろんな意味で涙が出そうになった。とりあえず、心の中だけでいいから一言叫ばせてください。 まぎらわしすぎる…っ!! 「ああぁ…悲しい顔をしないでキョン。こっちも悪かったよ…安易に好きって言ったりしてゴメンね。」 「いや、いいんだ。もうそれについては…」 疲れた。以上。 「ただ、涼宮さんがlikeかどうかはわからないけどね。案外loveだったりするかもしれない。」 「佐々木…この局面でからかうのはやめてくれ…俺をオーバーキルしたって良いこと何もねえぜ…?」 「別に冗談で言ったんじゃないけどなぁ今のは。で、実際のところどうなんだい?彼女は。」 「どうなんだって…俺にそれを聞くか!?どうしたもこうも、相変わらず涼宮ハルヒその人よ。 今日の昼会ったときだって、団長様以外の何者でもなかったさ。」 「今日…ああ、そういえば日曜はSOS団の不思議探索だったか。何にせよ、彼女は元気そうだね。」 「元気すぎて困るくらいだ。」 「くっくっくっ、そのバイタリティー、僕にも分けてほしいものだ。しかし…ふむ、 その様子だと何もかもうまくいったようだね。本屋で会った時点でなんとなくわかってはいたけど。」 「?何の話だ?」 「隠さなくていいよ。昨日何があったかは…橘さんや周防さんから聞いたからね。」 っ! 一瞬びっくりした俺だったが…よく考えれば、佐々木が知っていても別段不自然というわけではない。 昨日の事件に橘や周防たちが介入してきた時点でな。 「…どこまで知ってるんだ?」 「大方の事情は知ってるかな。涼宮さんが何者なのか…いや、何者だったのかという点も含めてね。」 「……」 一昨日ハルヒが卒倒した際、長門が観測した未特定情報の大規模拡散。 もし長門がいなければ俺は…そして古泉や朝比奈さんも今回の事件の核心に迫ることは決してなかったろう。 それほど長門のはたらきは必要不可欠だったわけだが…長門が観測できたということはつまり、 天蓋領域の周防だってそれは可能だったんだろう。ということは、真実を知った奴らが 別世界の朝比奈さん殺害を決定したのも…このときか。時を同じくして俺らは大混乱だったわけだな。 「聞けば、じきに世界が崩壊するらしいとのことじゃないか?それを知った僕は自分も何かできないかと 橘さんたちに打診してみたんだが…ことごとく断られてしまった。そのため彼女たちが何をしたのかも 結局は教えてくれなかったが…まあ、僕は関わるべきではなかったってことなんだろうね。 僕にはキョンたちの無事を祈ることくらいしかできなかった。」 「…そうだったか。」 その一点においてだけは連中に感謝してやろう。佐々木を巻き込んでくれなくて本当によかった… まあ、連中からすりゃ佐々木は重要な保護対象なんだから当たり前っちゃ当たり前なのかもしれないが。 それと、『僕は関わるべきではなかったってことなんだろうね。』だが…俺からすりゃ、 関わるべきじゃなかったってよりは、知る必要のなかったって表現のがシックリくる。 なんせ、結果として奴らは朝比奈さん殺害を断行したのである。結局未遂に終わりはしたものの… そんな物騒なこと佐々木に教えられるわけがない。知る必要のないこととは、まさにこのことだ。 「…それにしても涼宮さんの過去には驚かされたよ。 僕が彼女の立場だったら…とてもではないが耐えられないね。おそらく発狂して終わりだ。 そうならなかっただけでも彼女の、その強靭な精神力には目を見張るものがある。 ただ、そんな彼女も…昨日でようやく終わったのだろう?君が…彼女を【解放】した。違うかい?」 「…そうだな。何もかも…全て終わったと思う。」 あくまで『思う』としか言えない。ハルヒの一連の能力も…消えた可能性こそ高いが、まだ断定できた というわけじゃないからな。とりあえず、古泉曰く閉鎖空間自体は一切見えなくなったとのことらしいが。 そしてここで気付く。ハルヒの能力の、それに至る過程を知っているということはつまり… 「…なあ佐々木。もしかして、お前のそれも消えちまったのか?」 つい代名詞を使ってしまい、しまったと思ったが… 今の話の流れならおそらく『それ』でも佐々木には十分伝わったはずだ。 「察しがいいね。そうだね…消えてしまった。気付いたのは今日の朝かな。 目眩がしたり、どこかが痛かったわけでもないんだが…何かこれまでとは違う強烈な違和感をを覚えたんだ。 具体的に説明できないとこが歯痒いけれど。それで気になって橘さんに電話してみたら… 案の定というわけだよ。」 …… 本人がここまで言うということは佐々木の…能力は消滅したとみてもいいんだろう。 となると、逆算的に…ハルヒの能力もなくなってるってことになる。まさかの古泉説当たりか? 『やれやれ』とか言って気だるそうに話聞いて悪かったな古泉。 「…そうか。消えて何か思ったりしたか?」 「いや、特別には。今までが大した能力じゃなかったからね。 そもそも、閉鎖空間が存在してるだけのそれを能力と言えたかどうかも怪しい。 大体そんなところではあるけど。敢えて言うならば、なくなって少し不安だったかな。」 不安? …… 一瞬意味がわからなかった。逆ならすんなり通るんだが… 「…すまない。涼宮さんの気持ちを考えるなら、なくなって不安だとか そういうことを言うべきじゃなかった。僕ときたら…本当自分勝手な人間だ。」 「いや、別に俺はそんなこと思っちゃいないが…」 逆に俺はその理由が気になっていた。確かに…ハルヒならばありえないだろう。なくなった今、 あいつは幸せなはずだからな。だからこそ、なぜ佐々木がそんな正反対のことを言ったのかが気になるのだ。 「…佐々木。よければその理由教えてくれないか?なに、それで怒るほど俺は卑小な人間じゃない。」 「……」 言うのを躊躇ってたようだが、やがて彼女は決心したのか、静かに口を開く。 「…怖かった。」 「え?」 「怖かった。君との接点がなくなるのが、怖かったんだ。」 「……」 一体何を言い出すのか?と思ったが、なんとなくその意図は伝わった。いや、確かに伝わった。 決して特別なことを佐々木は言ってるわけじゃない。彼女もまた、古泉・長門・朝比奈さんたちと 同じだった、ただそれだけだ。今日の不思議探索時、俺は古泉・朝比奈さんと…ハルヒの能力がなくなっても SOS団であり続けることを確かめ合った。元々の存在意義を失ってまでも2人は、俺たちと一緒にいてくれることを 選んでくれた。最初はなかったかもしれない繋がり…だが、今ではちょっとやそっとの理由じゃ決して離れない、 そんな強固な絆が確かに俺たちにはあった。だからこその『SOS団であり続ける』という答え。そしてそれは、 後で確認した長門も同様の答えだった。しかし…一方の佐々木はどうだろうか? 俺には、佐々木に対してそこまで露骨な役割意識はもってなかった。が、それでもだ。 SOS団と敵対してたはずの藤原・橘・周防が佐々木に接近、ないしは取り込もうとしていた客観的事実。 それを前にして俺たちと佐々木の能力に、果たして接点がないと言えただろうか?中学の卒業以来、 俺と佐々木が塾という学習環境以外で会うことが多くなったのも、これらの要素が無関係だと果たして 言えただろうか?残念ながら答えはNoだ。一部においては、俺はそれを認めなくてはならない。 佐々木本人も俺たちの関係がそれを前提として成り立ってたことを知っていた。 それは先程の彼女の言葉から明らかである。ならば、ここからが問題だ。 その接点が消えてしまったとき、俺と佐々木は一体どうなるのか?それを考えなくてはならない。 さて、どうなるのだろう。まず古泉や長門、朝比奈さんにはSOS団という明確な繋がりがあった。 だからこそ、ハルヒの能力が消えても俺たちは『俺たち』であり続けられた。しかし、佐々木はどうだ…? 彼女には…SOS団のようなわかりやすい繋がりというのがない。…繋がりがない。 つまり、接点無き今、佐々木とは元の白紙の関係に戻るというわけだ。 …… …ちょっと待て、それはおかしくないか?第一、この論法には俺個人の感情が全く反映されていない。 佐々木の感情だってそう。機械的概念で割り切れるほど、人との付き合いってのは無機質なものだったか?? そんな単純なものだったか??…何か違う気がする。 そこでふと、佐々木との会話を思い出す。今日俺に投げかけてくれた、その一連の数々を。 ------------------------------------------------------------------------------ 「とはいえ、いきなり話しかけたりしてすまなかったね。久々に君を見てしまったんで、つい…ね。 衝動が抑えきれなかったんだよ。旧友との素晴らしき再会、それに免じて許してはくれないかな?」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「僕はキョンが食べるのと同じものにするよ。」」 「それまたどうして?」 「気分さ。」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「その意見は至極妥当だと言える。そしてサイズだって、自分に不釣り合いなのはわかってたよ。 それでも今日だけは君と同じ…あ、いや、何でもない。とりあえずさ、食べるの手伝ってくれないかな?」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「僕はねキョン、君に行動原理をしっかりと把握されてる、そんな涼宮さんが羨ましいと言ったんだよ。そして、 そんな彼女も君のことを把握してるからこそ、理不尽な要求が通せるんだ。互いが互いのことをわかってる… なんとも理想的な、仲睦ましい男女じゃないか。」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「あ、あのねえキョン。さっき言った好きってのは友達としての好き、つまりlikeだよ。」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「…そうか。消えて何か思ったりしたか?」 「いや、特別には。今までが大した能力じゃなかったからね。 そもそも、閉鎖空間が存在してるだけのそれを能力と言えたかどうかも怪しい。 大体そんなところではあるけど。敢えて言うならば、なくなって少し不安だったかな。」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「怖かった。君との接点がなくなるのが…怖かったんだ。」 ------------------------------------------------------------------------------ …なるほど。冷静に回想してみて、なんとなくわかった。佐々木が…俺のことをどう考えていてくれたか。 そして、これから俺とどういう関係でいたいのかってのがな。接点が切れてしまった今どうするのか? その解決法はあまりに単純だった。 「…佐々木。」 俺は思ったことを素直に口に出す。 「なければ…作ればいいんじゃないか?」 「え?」 「接点をだ。」 佐々木はわけがわからないといった顔をしている。まあ、それも当然だろう。俺がお前の立場だったとしても、 そりゃ頭を抱え込むさ。昔、誰かさんとそういうやり取りがあったから尚更そう確信できる。 「接点って…どういうことだい??」 「どういうことって…お前が今日、俺に散々言ってたことだろう?…まあ、わからんようならストレートに言ってやる。」 一息つき、俺は言い放った。 「たった今から俺とお前は正式に『親友』とする。一方的なもんじゃなく、互いがそれを認め合う仲だ。 それは…これからもずっとだ。どうだ?これで接点ができただろう?お前が不安がる心配なんか、 どこにもなかったんだよ。」 …… 「くっくっ…アッハッハッハ!!」 それまでの重い空気を吹き飛ばすかのごとく、緊張の糸でも切れてしまったのか…佐々木は笑い出した。 「おいおい、何も笑うことはないだろう?」 「いや、この状況で笑うなってほうが無理だよ…!くっくっく…というか、 まさか君が真顔でそんなセリフ言うなんてね…!夢にも思わなかったよ…!」 「……」 俺の真顔というのは、それはそれはシリアスとは程遠いらしい。…地味に傷つきましたよ佐々木さん。 「…で、面白かったのはわかったから、結局お前はどうなんだ?『親友』になるのかならないのか?」 「おお、怖い怖い。まるで『イエスかノーか』で英軍司令官アーサー・パーシバル中将相手に 降伏勧告を迫ったマレーの虎、山下奉文大将そのものだね。いや、マレー作戦時においては 彼の階級はまだ中将だったから、山下中将と呼んだ方が適切なのかな?」 「…ぶっとんだ例えで俺を幻惑するのはやめてください…。」 「くっくっく、ゴメンゴメン、ついノリで。」 ノリであんな例えを即座に思いついたのか!? 「もちろん、答えはYesだよ。正直、キョンに面と向かって言われたのにはびっくりしたけど… でも、僕はそれを聞けて本当に嬉しかった。冗談じゃなくね。だからキョン、ありがとう。」 「…お、おう。」 こっちこそ、面と向かって礼を言われるとは思わんかったぞ?いかんな…こういう場面は恥ずかしくなる。 などと思ってた矢先 …? 佐々木はいつもと変わらないニコやかな表情をしていた。…気のせいか? 一瞬表情に陰りが生じたように見えたんだが… 「あれ?あんなところに涼宮さんが。」 現実に引き戻された。 「ハ、ハルヒだと!!?」 俺はパニックになった。いや、決して佐々木とやましいことをしてるわけじゃないが、このタイミングで 鉢合わせはいろいろとマズすぎる…!?というか、なぜここにハルヒが!?どうして!?Why!? 佐々木が向けていた視線の先…もはや何も考える気は起きなかった。俺はただただ一目散に振り返った。 …… 「なあ、佐々木…」 「何だい?キョン。」 「ハルヒなんてどこにもいないんだが…」 「軽いジョークさ。」 「……」 俺は考えることをやめた。 「ゴメンねキョン。つい魔が差しちゃった。」 「魔が差したってお前…いや、もういい。」 俺はテーブルにうつ伏せた。もはや語ることなど何もない。 というか佐々木よ、まさかこの局面でからかってくるとは、よもや思わなかったぞ…?? 俺の心臓はというと、いまだバクバク波を打っていた。お前のその『魔が差した』とかいう 刑事史上最低最悪の動機で、俺がショック死という最低最悪の死を遂げそうだったというこの客観的事実ッ!! 原因と結果のあまりの落差に目眩がしてきた。…マジで、いきなりハルヒの名前を出すような真似は やめてほしい。切実に、本当に切実にそう思った。寿命が10年は縮まったのは言うまでもない。 ということは、これを後6回くらいやられたら、俺は死ぬのだろうか? 佐々木の顔色が一瞬だが悪かったような…とかいう昔のことは、今となってはもはや忘却の彼方だった。 「ところでキョン、話は戻るけど…」 戻るも何もお前がとばしたんだがな…それも1歩どころか別次元へ。 「戻るって…どこまでだ??」 「さっきのお礼の続きからだよ。」 ああ、マジメな話をしてたあの頃か。ひどく懐かしく感じる。 「『ありがとう。』と言ったのはもちろん本心だったんだけど…君にはもう1つ言うべきことがあったんだ。」 「…何だ?言っとくけどな、さっきみたいな不意打ちはもうナシだぜ??」 「大丈夫。もう変なことは言わないよ。」 一息つき、覚悟を決めたかのごとく俺に視線を合わせ、そしてヤツはこう言い放った。 「キョンは…涼宮さんとくっつくべきだ。」 「……」 …… さっき変なことは言わないって言いませんでしたっけ?人間不信に陥りそうなんですが… 「…とりあえず聞いていいか?くっつくってどういうこと?」 「付き合うってことさ。」 さらりと言ってのけた。 …… これが…さっきの話の続き?ちょっと待て。一体どこがどこに繋がってんの??互いを親友だと 確認したまでは覚えてる。それに対し、佐々木が俺に伝えたかったこと…それが『ありがとう。』のお礼、 そしてさっきの『キョンは…涼宮さんとくっつくべきだ。』の台詞。なるほど、よく考えたら繋がってるように… ダメだどう考えたって見えない 「あのなぁ…前後関係が全く見えないんだが!?どうしてそこでハルヒが出てくる!?」 「…なるほど、君はやっぱり気付いてなかったんだね。キョンが…あの場面で強く『親友』という ワードを強調したこと。とっさに出てきた言葉が『親友』だったこと…それが全てというわけさ。」 「??」 「親友というのはね、辞書には載ってないだけでもう1つ意味があるんだよ。 まあ、わからないならわからないでいい。君は…知らなくてもいいことさ。」 やはりというか、やはり意味がわからなかった。ちょっと気になるところではあるが…まあ、本人が知らなくても いいって言ってるなら別段気にする必要もないか、といった具合で俺の中で、それは完結したのである。 …… どこか遠くに視線をずらしたかと思うと、再びこちらに向き直る佐々木。 「…君だって満更じゃないはずだ。涼宮さんのことが…好きなんだろう?」 「……」 …… 「…ああ。」 気付けばそう答えてしまっていた。肯定するのは少し恥ずかしかったが…しかし後悔はしてない。 そもそもの自覚は…第三世界終焉の地だったか。その思いを昨日、俺は確かに【ハルヒ】に伝えた。 その思いに偽りはなかった。 「…なるほどね。君の口からそれを聞けてよかった…ともなれば、後はタイミングだ。 涼宮さんも、キョンのことは好きに違いないからね。付き合う前からすでに相思相愛だなんて… もはや幸せな未来しか見えないな!いやー、実に羨ましい限りだね?キョン。」 「…勝手に決めつけられても困るんだが?なぜそう根拠もなしに ハルヒが俺のこと好きだって断定できるのか…その自信の在りかを知りたいもんだね。」 「じゃあキョン、君と涼宮さん以外のSOS団のメンバーにそれを聞いてみてごらん? きっと僕と同じ回答をするだろうからさ。」 「いや、そんなバカな話が…」 あった。 「くっくっくっ、これで当事者を除いて満場一致だね。 そういうわけで、つまりは君たちの仲をみんな応援してるんだよ。 …僕も含めて。だから、後は君が一歩踏み出せばそれでフィナーレということさ。頑張ってねキョン!」 「そんなお前、他人事みたいに…」 …… しかし、応援されてるってのは、少なくとも悪い気分ではない。 みんなが俺たちのことを祝福してくれてる…実感こそなかったが、実はこれって凄く幸せなことなんじゃ…? と心地よい感傷に浸ってたところに佐々木が一言。 「あ、キョン。後5分で9時だよ。」 …佐々木よ。お前、本当なりふり構わずだな?こんなときまで俺をからかおうってか? さすがにその手はもう喰わんわ…俺にも一応学習能力はある。で、俺はもう少しこの感傷に浸っていたい。 「信じてないって顔だね…くっくっくっ、まあ、それならそれでいい。 ただ、僕が現代に生きるイソップ物語の体現者になるというだけさ。」 「……」 凄まじく嫌な予感がした俺は、自分の携帯で時刻を確認した。 「8時…56分!?」 「あちゃー、どうやらこうやって話してるうちに1分経っちゃったみたいだね。どうするのキョン?」 「どうするって…帰るに決まってるだろう!?」 そういうわけで、急いで勘定を済ませた俺たちは直ちに店外へ出たというわけさ。 …12月の夜ということもあって肌寒かったのは言うまでもない。こっちの意味でも早く帰る必要がありそうだ。 「で、後3分で9時だけど。」 「あのな…常識的に考えて間に合うわけがないだろ…!?死のカウントダウンのごとく 時を宣告すんのはやめてくれ…それより、お前だって門限は9時なはずじゃなかったか??」 「確かに。けど言ったよね?今日は両親がいないって。だから、今日に限ってはそれは通用しないのさ。」 ああ、そうですか。だからお前は余裕もって笑顔でカウントしてたんだな。納得したよ。 しかし…どうせ間に合わないのなら焦るのもバカらしくなってきた。もちろん、早く帰るに越したことはないが… 「佐々木、帰りは送っていかなくていいか?」 かなり暗くなってたんで、一応気になった。 「いや、心配は無用だよ。明るいところを通って帰るからね。 その好意だけ受け取っておくよ。…それに、今日は1人で帰りたい気分なんだ。」 「…そうか。ま、それならいいんだけどな。」 「ところで…キョン。体のほうは大丈夫なのかい?明日学校行ける?」 「ん?ああ…そうだな。」 いつからだろうか。体の倦怠感はすっかり取れてしまっていた。死に体になってた食事前が 嘘みたいなこの感覚。人間の体はうまい具合にできてると聞いたことあるが、それがまさにこれってやつか。 「いつのまにか回復してたらしい。学校にも行けそうだ。」 「そうか…それはよかった。確かに、今は元気そのものと言っていいくらい生き生きとしてる感はあるよ。」 「これも全てはオクラ牛丼特盛りのおかげだな。食べもんの力は偉大だ。」 「おいおい…ここはお世辞でも『佐々木が一緒にいてくれたおかげだ』って言う場面じゃないかな?」 「ははは、そう呆れなさんなって。今のは冗談だ冗談!もちろん、お前にだって感謝してるんだぜ?」 「…別の意味でまた呆れたよ。随分とまあ、してやったり顔だね。よもや君が僕にそんなことを言うとは…。」 「『親友』…だからな。これくらいの言葉のキャッチボール、お前からすりゃまだ全然遊び足りねーだろ? これからもいろんな種類、試していけたらいいよな?」 「…キョン。まったくもう、君ってやつは。仕方のない人だ。」 そう言いながらも、そんな佐々木の顔は…とても笑顔に富んでいたように思えた。 俺の他愛ない言葉一つで楽しんでくれるなら…俺はそれで満足だ。 「ちなみに、それはデッドボールも可なのかな?」 そして、笑顔で何を言い出すんだ?このお方は。 「お前の言うデッドボールって、一体…?」 「うーん、暴言とかその類かな。」 「全力で断る!!そんなのハルヒだけで十分だッ!!」 佐々木に『バカ』とか『死ね』とか言われた日にゃ全力で泣く。いや、マジで。 「ほう…なるほどね。デッドボールは恋人だけの特権というわけだ? まったく、そこまで涼宮さんを特別視するなんて、君の熱の入れようにはあっぱれだよ。」 ヤツはこれを本気で言ってるのか… それとも、すでに俺の反応を伺う変化球タイムに突入してしまってるのか… 今の俺には判断のしようもなかった。これからも親友を続けていればいつかは… こういった差異も見抜けられるようになるのだろうか?ふと、そんなことを思った。 …… 「…羨ましいな。」 「?何か言ったか?」 「くっくっく。なぁに、ただの独り言だよ。キョン。」 Fin
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「おい、ハルヒ」 その時、いきなりキョンに声を掛けられて、あたしは背中をぴきぴきっと引きつらせてしまった。な、ななな、何よ!? あんたまさか、ヘンな勘違いしてるんじゃないでしょうね! あ、あたしは別にそんなつもりで、こんな所にあんたを連れてきたわけじゃ…。 「実は今、朝見たテレビの占いコーナーを思い出したんだけどな。今日の風水じゃ、こっちの方角は俺にとって猛烈に運勢が悪いらしいんだ、これが」 「え、そ、そうなの?」 「できれば別方向に探索に行きたいんだが。ダメか?」 「そういう事なら、し、仕方ないわね。じゃあ…」 表面上は不服そうな顔をしてたけど、本音を言えばキョンの言葉は渡りに船で、あたしはそそくさとこの場を離れ―― ――ようとして、はた、と疑問の壁にぶち当たった。ちょっと。ちょっと待ちなさいよ、キョン。あんた、今朝はあんなやつれた顔で遅刻してきたんじゃない。朝の占いなんか見てる余裕あったわけ? そもそも、あんたってば占いとかそういう類は否定はしないけど肯定もしないってタイプだったでしょうが。まさか、あんた…。 気が付けば、あたしは奥歯を軋むくらいに噛みしめていた。くやしい、くやしいくやしい! 今は、あたしがキョンの事を気遣ってやらなきゃならないはずなのに…! それなのに、どうしてあたしがキョンに気遣われてるのよ!? 北高に入学したばかりの頃、つまらないつまらないと窓の外ばかり眺めてたあたしに、キョンは何やかやと話しかけてくれた。頬杖をついてふてくされた表情のままだったけど、あたしは内心、それがとても嬉しかった。 だから、だから今日は、あたしの番だと思ったのに…あたしはすごく張り切ってたのに! 実際にはあたしには何の手立ても無くて、逆にキョンに気遣われてる。あたしの尊厳を傷つけないように、自分の都合を押し付けるようなフリまでしちゃって…なに格好つけてるのよ、キョンのくせに! 後になって冷静に思い返すなら、あの時のあたしは、ちょっと普通じゃなかったと思う。小さな子供が親の前で格好良い所を見せようと背伸びするように、ただひたすら、キョンに自分の優位性を誇示したかったのだ。あいつの優しさに甘えてばかりの自分に我慢がならなかったのだ、と思う。 あとまあ本当に本音の事を言えば、この状況で「逃げ」を選択したキョンに、“女”として依怙地になっていたのかもしれない、けど。 ともかく、あたしが求めたのはキョンに対する逆襲手段であり…現在のこの状況、そして今朝からの出来事を鑑みた結果、あたしの頭の中で、ぺかっと何かが閃いたのだった。 そのアイデアに手段、結果推測などがパズルのようにカチカチとはまっていき、たちまちひとつの仮法案になる。あたしの脳内では『涼宮ハルヒ百人委員会』が召集されて、すぐさま“それ”が提議された。 議事堂の半円状の議席にずらりと居並ぶ、スーツ姿のあたし達。その中で、立ち上がったあたしAが腕を振り、口から泡を飛ばす。 「本当に“これ”を採択して良いのですか? あとで後悔する事にはなりませんか!?」 「正直、その可能性は否定できません。ですがもしも採択しなければ、それはそれで後悔する事になるかとわたしは思います!」 あたしAの質疑に、敢然と答えるあたしB。周囲の大多数のあたしの中からは、やんややんやと歓声と拍手。一部では天を仰ぎ失望の息を洩らすあたしや、口をアヒルみたいにしてケッとか呟いてるあたしも。 「静粛に! それではこれより決議に移ります。賛成の方は挙手を」 議長服のあたしがコンコン!と木槌を叩き、採決が始まる。その結果、賛成87票、反対5票、棄権8票で、“それ”は可決されたのだった。 「うん、決めた!」 満足できる結論に達して、あたしは大きく頷いた。自問自答の時間は、正味1分も無かったかもしれない。 ともかく、一度こうと決めたらただちにスタートするのが涼宮ハルヒ流だ。くるりと踵を返したあたしは、キョンの奴が 「ハルヒ? どうかしたのか?」 と小首を傾げた、そのシャツの胸倉を引っ掴んで、真正面からあいつを見据えてやった。制服のブレザーだったら、ネクタイを捻り上げている所ね。 「いい、キョン? 自分じゃ気付いてないんでしょうけど、あんたは今、ちょっとした心のビョーキなの。分かる?」 「はぁ? 何をいきな」 「黙って聞きなさい! だからこれから、あたしがあんたを治療してあげるって言ってんの! いい? 分かったら四の五の言うんじゃないわよ!」 「お、おい待てハルヒ、そこは…」 四の五の言うなと釘を刺したにも関わらず、ゴニョゴニョ言いかけるキョンの呟きを全く無視して、あたしは標的と定めた建物に突撃した。ほとんど拉致みたいな形だけど、仕方がない。正直、あたしは顔から火が出そうでとてもじっとしてはいられなかったし、それに、ありえないと思いつつも万が一、億が一、キョンに拒否られたらとか思ったら、その…。 えーいもう、仕方がなかったって言ってるでしょ!? キョンの奴には主体性って物がまるで無いんだし! あいつの方からあたしをリードできるだけの甲斐性があれば、あたしだってこんな強硬手段を採ったりはしないのよ、うん! そういうワケで仕方なく、キョンを引っさげたあたしは道場破りみたいな面持ちと勢いで、その建物に乗り込んだのだった。通りには他に何組かカップルがいたけど、こういう時に人目を気にしたら負けよね。じゃあなんでお前の耳や頬はこんなにも火照ってるのかって、そんな事はいちいち訊くもんじゃないわ。 結局の所、そこはあたしがこの界隈に来て最初に看板を発見した白い建物で。外壁に提げられたその看板には、 【デイタイムサービス ご休憩3時間 3200円】 といった記述がなされていたのだった。 「ふうん…これがラブホって所なんだ…」 ちょっとした感慨を込めて、あたしは呟いた。てっきりピンク色の照明なんかがギラギラ光ったりしてるのかと思ってたら、何というか普通のホテルにカラオケボックスを合体させたような感じだ。部屋の広さに比べるとベッドが結構大きくって、あとティッシュやら何やらが脇に置いてあるのが、なんだか生々しい。 「…正確にはファッションホテルだかブティックホテルだかと呼ぶべきらしいぞ」 あたしの手で部屋に放り込まれたキョンが、カーペットに膝をついた格好でげほげほ咳き込みながらそんな事を言う。まったく、役にも立たない知識だけは豊富な奴ね。 などと思ってたら、キョンの奴は下から、じろりといった感じであたしを見上げた。 「やれやれ。俺もいいかげん、団長様の行動の突飛さにも慣れてきたかと思ってたんだが。とんだ思い過ごしだったみたいだぜ。 なんだ? まさか今日の不思議パトロールは女体の神秘を探検よ!とか言うんじゃないだろうな」 困惑ぎみのキョンの表情に、あたしは少しだけ、胸がスッとするのを覚えた。もっともっと、キョンの奴を困らせてやりた…あ、いや、違う違う。今日ばかりはあたしの都合は二の次なんだったわ。 決意も新たに、あたしは両の拳を腰に当てて前に身を屈め、キョンの顔を上から覗き込んでやった。どうにかして、こいつを励ましてあげなけりゃね! 「もし『そのまさかよ!』って言ったら、あんたはどうするわけ」 「なんだって?」 「本当の事を言うと、あたし、前々からあんたの恩着せがましい所にちょっとムカついてたのよね。あたしが何か命令するたびにさ、あんた、諦め顔で『あーもー好きなようにしてくれ』とか言うじゃない。あたし、アレがいっつも気に喰わなかったのよ。 えーと、だから、その…今日はその意趣返しっていうか」 少し言葉を詰まらせながら、あたしはそう喋っていた。う~む、論理展開に若干のムリがあるかも? いやいや、ここは強気で押し通すべきよ。 「つまり! 今は、この場所でだけはいつもの逆で…あたしの事をあんたの好きなようにさせてやろう、って話なのよ。分かった!?」 そう言い切るとあたしはベッドに歩み寄って、キョンに相対するように、ぽすんと腰を下ろした。ミニスカートから伸びる足を組んで、腕組みをして…キョンをまっすぐ見るのはさすがに気恥ずかしいので、フンと顔を横に向ける。 「あんたが、女の子の秘密を知りたいって言うんなら…別に構わないって、あたしはそう言ってるのよ…」 ともかく伝えるだけの事は伝えたので、あたしはそっぽを向いたまま、キョンの出方を待っていた。 ううう、なんともこうムズ痒い気分だわ! 普段のあたしは 「キョン! そこの荷物持ってついてらっしゃい!」 「キョン! ここはあんたのオゴリだからね!」 とか命令形で話してるものだから、こういう雰囲気はどうも落ち着かない。だからって、まさか 「キョン! あたしにエッチな事してスッキリしなさい!」 なんて言えるはずも無いし。 う~、でもあたしが憂鬱だった時にキョンが話しかけてきてくれたように、あたしもキョンの奴を刺激してやる事には成功したはずだわ。ちょっと方法が過激だったかもしんないけど。でもこういうのって、いつかは誰かと経験する事で――。じゃあ、その最初の相手がキョンでも別に悪くはないかなって、あたしは思ったの。少なくとも今の所は、他の誰かとする事なんて想像できないし。 ついひねくれた物言いになっちゃったけど、さっきのセリフだって、決してウソじゃない。いつもはこき使うばっかりで、「お疲れさま」とか面と向かって言う事もなかなか出来ないから…だから今日くらい、こういう形でキョンの労をねぎらってあげたって、バチは当たらないわよ、ね? とにかく、あたしは賽を投げつけてやったわ! あんたはどう出るのよ、キョン!? …と、振ってはみたものの。正直あたしの予想では、キョンが手を出してくる可能性は30%って所かな。「もっと自分を大事にしろ」だとか、当たり障りのない逃げ口上を使ってくるのが一番確率が高い。仕方ないわね。なにしろ、キョンだし。 まあ、あたしとしては別にどっちでも構わないのよ。キョンの奴に、あたしを抱こうとするだけの覚悟があるんなら、それは嬉しい誤算だし。必死になってどうにかあたしを説得しようとするんなら、それはいつも通りのあたしとあいつの関係に戻る、っていう事だもの。 どっちにせよ、あたしがあんたの事を気に掛けてる、その気持ちだけは伝わるはずだとあたしは思っていた。だから、悪いように事が転がったりするはずがないとあたしは信じていた。でも実際には――キョンの反応は、あたしが想像し得なかったものだったのだ。 「…なあ、ハルヒ。『好奇心、猫をも殺す』って言葉、知ってるか?」 「えっ?」 「今のお前のためにあるような、外国のことわざだよ」 むくり、と身を起こしたキョンは、そうしてゆっくりあたしの方へ歩み寄ってくる。部屋の照明は薄暗くて、その表情はハッキリとは見て取れなかったけど、ただなんとなくキョンの体の周りに、うすどんよりとした空気が漂っている、ような気がした。 「キョ、キョン?」 あたしの呼びかけにも応じず、キョンは黙ったままこちらに向かって片手を差し出してきた。あたしの左頬に、キョンの右の手の平が添えられる。 いつものあたしだったら、ここはドキドキしまくりな場面だろう。心臓の鼓動をなだめるのに必死なはずだ。でも今は何か、何かが違う。ちっとも心がときめかない。どうしちゃったの、キョン? 今のあんた、何か、こわいよ…? 「先に謝っとくぞ、ハルヒ。すまん」 少し右手を引きながら、キョンがそう呟く。それからすぐに、ぱしん、という乾いた音があたしの顔のすぐ傍で起こった。 頬をはたかれたのだ、という事を理解するのに、あたしの脳は、それから数十秒の時間を要した。 痛くはない。多分、トランプやら何やらの罰ゲームでしっぺやウメボシを喰らった方が痛い。ただ、キョンに叩かれた、という事実に頭の中が真っ白になってしまっているあたしに向かって、キョンはうめくような声を絞り出していた。 「でもな? 俺にだって許しがたい事ってのはあるんだよ。いいか、これだけは言っとくぞ。俺は間違っても、お前の身体が目当てでSOS団の活動に参加してたわけじゃない!」 あたしはただ、唖然としていた。あたしを睨み据えるキョンの瞳には、確かに憎しみと哀しみの色が入り混じっていた。 「ご褒美に身体を自由にさせてやるだと? 馬の目の前にニンジンでもぶら下げたつもりかよ。そうすれば男なんか、みんな大喜びだとか思ってたのかよ!? 俺も、そんな野郎の一人だと思ってたのかよ――。ふざけんな、人を馬鹿にするのも大概にしろ!!」 いつの間にか、キョンの感情のボルテージは急上昇していた。その怒声が、あたし達のかりそめの宿の中いっぱいに響き渡る。 その後、急速に静寂が訪れて…あたしの耳には備え付けの冷蔵庫の低いブーンという駆動音だけが、ただ虚ろに届いていた。 どうして――どうしてこんな事になってしまったのか。 キョンに頬をはたかれたショックに引きずられながら、それでもあたしは、ひたすらに考え続けていた。 躁鬱病だか何だか知らないが、たかだか心の病気くらいで女の子に手を上げるような、キョンは決してそんな人間では無い。何か、何か理由があるはずなのだ。こいつがここまで激昂するワケが。その証拠に、あたしを見下ろしているキョンの表情は、ひどく悲しく、悔しそうに見える。まるで自分の尊厳を、根こそぎ踏みにじられたような…。 そこまで考えた時、あたしはさっきのキョンのセリフをもう一度思い返してみた。キョンの立場になって、もう一度その意味を考え直して――そして、やっと自分のあやまちに気が付いた。 ああ。ああ、そうか。そうだったんだ。キョンの奴は…口ではなんだかんだ言いながら、こいつはこいつなりに、SOS団の活動に誇りを抱いていたんだ…。 そうよ、あたし自身が何度もキョンに言ってたんじゃない。この不思議探索はデートじゃないのよ、真面目にやんなさい!って。 キョンの奴が大した成果を上げた事はなかったけど、それでもちゃんとSOS団の一員としての自覚は持ってたんだ。こいつはその誇りを、胸に秘めていたんだ。 なのに団長たるこのあたし自らが、午後のパトロール任務を放り出して相方をラブホに連れ込むようなマネをしたら、それは「ひどい冒涜」だと受け取られても、仕方がなかったかもしれない。ごめんね、キョン。あたしにも反省すべき点はあったわ。でも、でもね? すっくとベッドから立ち上がったあたしは、真正面から、毅然とキョンを睨み返してやった。 「『ふざけるな』ですって? 『馬鹿にするな』ですって――? それはこっちのセリフよ、キョン!!」 啖呵と共に、左手でキョンの右腕を掴み、右手をキョンの左脇の下に差し込む。そのままくるりと回転して、あいつの体を腰の上に担いだあたしは、渾身の力でキョンを前方に投げ飛ばしてやったのだった。 女子柔道部に仮入部した際に憶えた技だ。確か『大腰』だっけ? まあ技の名前なんてどうでもいいけど。とにかく、ごろんごろんと面白いくらいの勢いで投げられ、転がっていったキョンは、部屋の出入り口扉の横の壁にぶつかって、ようやく止まった。 一瞬の事で何が起きたのかまだ分かっていないのか、尻餅をついた格好で茫然自失といった顔をしてる。ふふん、いい表情ね。 「人を馬鹿にしてるのは、キョン、あんたの方でしょうが!」 「…なんだって?」 「あたしは、涼宮ハルヒはね! 明日後悔しないように、今を生きてるの! こうしたら得するだろう、こうしたら損するだろうとかじゃなくて、いま自分がどうしたいかを第一に、ひたすら前進してるの! その決断の早さに凡人のあんたがついてこられなくて、戸惑わせちゃった事は一応謝っとくわ。だけど、だけどね!」 心の中の憤りを包み隠さず、あたしはキョンの奴を大喝してやった。 「『好奇心、猫をも殺す』ですって――? そっちこそふざけないでよ! あたしが本当に、ただの好奇心であんたをホテルにまで連れ込んだと思ってんの!? 見損なうな、このバカっ!!」 さっき、キョンは『俺にも許しがたい事はある』と言った。なら、あたしの許しがたい事はまさにこれだわ。キョンの奴が、あたしの決意と覚悟をまるでないがしろにしてるって事よ! 「確かにね!? あんたとここに入って、そーゆー事しようってのは、ついさっき思いついたわよ! 後先考えてないって言われたら、否定できない部分はあるわよ! でもね! あたしだってちゃんと考えたのよ! あんたとそーゆー関係になっちゃってもいいのかって! 初めての相手が本当にあんたでいいのかって…。百万回も! それ以上も! 頭の回路がぐるぐるぐるぐる回って、しまいにはバターになるんじゃないかってくらい真剣に考え詰めたのよ! その上で、あたしはあんたと今、ここに居るのに…それなのにッ!」 さっきのお返しとばかりに、あたしは出来うる限りの鬼の形相で、キョンの奴を見下ろしてやった。もうこうなったら徹底的に糾弾よ糾弾、アストロ糾弾よ! 「あたしだって、こんな事するのはすごく恥ずかしかったのよ! でも、ちょっとしたショック療法っていうか――つまんない悩み事なんて忘れちゃうくらいの刺激を与えたら、あんたが少しは元気を取り戻すんじゃないかと思って…。他にあんたを元気づけてあげられる手段を思いつけなくって、それに、それにそもそもは、あんたがあんな事を…言ったから、だから――」 あれ? おかしいな? キョンの奴を、これでもかってくらい締め上げてやるはずだったのに。気が付くとあたしの言葉は途切れ途切れに、言ってる内容もなんだか支離滅裂になっていた。 そして、頬の上をはらはらと伝わっていく冷たい物…。これは…悔し涙? ちょっと、ダメよ! 何やってんのよ、あたし!? ここは団長としての威厳を見せつけて、キョンの誤解をねじ伏せてやるべき場面でしょ! 何を普通の女の子みたいに泣き崩れそうになってんの!? しゃんとしなさい、しゃんと! ああ、でも無理だ。元々あたしは、感情をセーブするというのが苦手なのだ。ダムが決壊したみたいに、溢れはじめた想いはもう、止められなかった。 「だからあたしは、思い切って一歩踏み出したのに! それをあんたは…男なら誰でもみたいな…言い方をして…。 あんたはただの下っ端だけど…栄えあるSOS団の、団員第1号なのに…。あたしの最初の仲間だったのに…そのあんたに、そんな…風に、思わ…てた、なんて…」 心のどこかで、あたしは、自分が勇気を出したらキョンはきっと応えてくれると信じていた。そう期待していたのだ。でも、その期待はあっけなく裏切られてしまったから、だから――。 「もう…知らない。知らないわよ、あんたの事なんて! このバカ! バカキョン! あんたなんか、一生ぐじぐじ腐ってればいいのよ!」 自分があんまりみじめで、この場にはどうしても居たたまれなくて。あたしは小走りに駆け出した。キョンの横の扉を通り抜けて、表へ飛び出した。 ううん、違う――そうしようとしたのだ、だけど。 ドアノブを回そうとしたあたしの手に、あいつの手が重なっていた。消え入りそうな微かな声で、でも確かに、あいつはこう言った。 「悪い…。すまなかった、ハルヒ…」 次のページへ
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涼宮ハルヒの憂鬱 すずみやはるひのゆううつ 【原作】【アニメ・ゲーム等】 10-02-09作成 random_imgエラー:ご指定のファイルがありません。アップロード済みのファイルを指定してください。 詳細はこちら 関連項目 らき☆すた けいおん! 北高 ちゅるやさん キョン子 動画検索 「涼宮ハルヒの憂鬱」でタグ検索 「ハルヒ」の含まれるタグの一覧 random_imgエラー:ご指定のファイルがありません。アップロード済みのファイルを指定してください。 動画 冒険でしょでしょ?(Full Ver.) 涼宮ハルヒ op 涼宮ハルヒ ED 実写版 MAD sm3613437らき☆すた+涼宮ハルヒの憂鬱(完成版) http //www.nicovideo.jp/watch/sm3613437 その他 sm3721836ハルヒダンス ザ・囚人達 http //www.nicovideo.jp/watch/sm3721836 さ行の単語一覧にもどる トップページにもどる - -